1、極秘命令

 地球連邦軍の宇宙での拠点ルナツー。
 かつての重要な戦略拠点はジオンの脅威が無くなった今、その意味は変りつつあった。

 巨大なマゼラン級宇宙戦艦が歪んだ影をルナツーの表面に映す。宇宙空間に沿った光のレールが点滅していた。
宇宙戦艦を安全にドッグ入港させる為の誘導システムだ。それに沿ってマゼラン級はゆっくりとルナツーの内部に入
っていった。

 宇宙戦艦の進む姿を観るのは好きだな……

 ドッグのエアルーム越しに入港するマゼラン級を観ながらスレイ・リケンベは地球連邦軍にいることに誇りを感じて
いた。
 地球連邦の宇宙軍に志願したのはいつか宇宙戦艦を操縦したいという子供の頃からの夢の為だった。しかし彼は
宇宙戦艦を操縦する事も指揮する事も叶わなく、代わりに連邦軍が認めたのは彼の作戦参謀としての才能である。


「中佐は"ファントム"なるジオンの残党の事を知っておるか?」
 ルナツーの一室で連邦軍の上級将校は呼び出したスレイ・リケンベにそう言った。彼の参謀として引き抜かれたリ
ケンベは一年戦争時にはブレーンとして幾つかの作戦を提示したことがあった。終戦後、指揮下を離れジャブローで
仕事をしたが数日前呼び出しがかかった。
「いえ、その名前は聞いたことはありません?」
 スレイ・リケンベは奇妙なそのキーワードに眉をひそめる。
「最近、ジオンの残党らしき連中に小規模ではあるがサイド5周辺に展開中の艦船を一部襲撃されている。そいつの
"あだ名"だよ」
「ジオンの残党ですか?」
「兵どもはサイド5に単機で出没するモビルスーツを指しているようだが正体をよくつかんでおらん」
「なるほど、まさに、"ファントム"ですな」
「ふん、くだらん呼び名だ。かけてくれ」
 上官の言葉でリケンベはようやく椅子に座ることができた。椅子の横には小さなテーブルにファイルが置かれてい
るのに気がつく
「その敵はMS−14ゲルググと同型である事が確認されておる。が、我々の知るゲルググとは多少違うという様だ。
かん口令は引いてあるが損害はサラミス級が4が撃沈、マゼラン級が大破と甚大だ」
「"ゲルググ"でサラミスが4隻ですか。"赤い彗星"を思い出しますな」
「そうだな。生き残りの話では何やら対ビーム兵器用の特殊装備をしているようだ。君の任務は"ファントム"を確保。
機体を手に入れて欲しい」
「生け捕り…ですか。その必要があるので?」
「ビーム兵器が主流になりつつある現状で"ファントム"の対ビーム兵器装備は重要である、という事だ。特にモビル
スーツに搭載できるくらい小型のものはな」
「では、機体さえ確保できればパイロットは?」
「情報を取りたいところだがやむ終えん場合は……」
 上級士官は言葉を濁らせた。
「わかりました。しかし少々難しい事が」
「なんだ?」
「1年戦争中のゲルググは情報のあった性能ほど恐れるほどのMSではなかった。それはキャリアの浅いパイロット
がほとんどだったからです。しかし実績のあるパイロットが搭乗した場合のゲルググは手強い。4隻のサラミス級を沈
める"奴"は特にね」
「自信はないか」
「そうではありませんが撃墜ならまだしも生け捕りならばこちらに相当の損害を覚悟しなければなりません。パイロット
たちの無駄死には1年戦争だけで十分です」」
「この私にはっきり言う。一応言っておくが今のは上層部批判になるぞ」
「忘れていただけるのでしょ?」
 上級士官は楽しげに笑った。
「ふふ、それでこそリケンベ中佐だ」
 上官は椅子にもたれかかるとテーブルのファイルを指差した。上級士官はリケンベが気になっていたものだ。
「我が連邦も戦後、ゲルググの分析をしてみたがスペック的にはガンダム級だったという話だ。開戦が一年遅れてゲ
ルググがジオンに主力機になっていたらと思うとゾッとする。条件が揃えば手強い相手だというのは私も分かってい
る」
 リケンベはファイルを手に取るとざっとめくってみた。その中でひとつの名前に目を止めた。

"ガンダム"……?

 「"ファントム"の戦闘力を情報部は熟練パイロットが搭乗したガンダム級と同等と算出した。そこでこの作戦には
RGM-79ではなくガンダムを用意した」
「ガンダム…をですか? プロトタイプ全機、1年戦争で失ったと聞いていますが」
「実はガンダムは量産機のモデルタイプとして作られた"F"型が何機かある。ガンダムの性能を残しつつ低コスト設
計した実験機だ。パーツの多くはRGM-79の物を流用。戦闘力はほぼRX78と同等だ。ジオンが崩壊した今、我々に
は多少、余裕がでた。"数打ち"のジムで応急の戦力補強の必要性も薄れてきたという事だ。その為の"量産型ガン
ダム"だよ。問題点を改善し新装備もある。決してゲルググには劣らんよ」
 リケンベはファイルをめくった。
「確かにガンダムタイプなら捕獲作戦の成功率が格段に跳ね上がる」
 再びページをめくるリケンベ。
「パイロットの人選は任せる。一応、こちらでもファイルに腕のいいパイロットをリストアップした。参考にしてくれ」
「知った顔もいます。うん、こいつは腕がいい」
「好きに選ぶといい。尚、作戦展開の司令部として改修型サラミス級"エープリル"を貸す。艦長は少々変わり者だが
優秀だ。艦長は同格の中佐であるが貴公の指揮下に入るように指示してある」
「全力を尽くします」
 リケンベはファイルを閉じ後、力強くそう言った。
 
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