4、コロニー入港

二稿目
 人類が宇宙にその生活圏を求めて半世紀以上が過ぎていた。”星Wともいえる目の前の人工建造物はその巨大
な姿を太陽光に照らされていた。円筒状の巨大衛星の内側には大量の土と植物が持ち込まれていて、そこではもは
や地球上と変わらぬ生活が営まれていた。
 コロニーの外壁に黒い影が映る。

 宇宙巡洋艦はコロニーの進入路を求めて移動していた。サラミス級と呼ばれるその宇宙戦闘艦はその百メートルを
超える船体を斜めに傾け旋回を開始していた。
「レーザーロックオン。誘導に従います」
「許可する」
 艦長は携帯食料のチューブを咥えると指揮椅子に備え付けてあった受話器をとった。
「ブリッジです。サイド5に到着しました」
 返事を聞き受話器を下ろした艦長のライスは軍帽を取ると止めていた髪を解いた。無重力状態の空中でブロンドの
髪がまるで水の中に沈めたかのように広がった。
「これで、ようやく一息つけるわね」
 金髪を無造作にまとめた艦長は大きく伸びをした。
「あの艦長、まだ入港してませんが」
 副官が咳払いをして言う。
「任せる。やってみせて」
 そう言って微笑んだライスはブリッジから出て行ってしまった。
「……了解」
 副官はため息をついて指揮席に向った。通信兵が笑いを洩らす。
「笑うなよ」副官は通信兵の頭を軽く小突くと艦長席に座った。




 エイプリルの展望室で一人のパイロットがコロニーの外壁を眺めていた。
 強化ガラスに手を押し付けながら外を見るその姿はまるで子供だ。
「おい! ”リトル”。もうすぐ入港だぞ」
 その声に外を見つめていたパイロットは振り向いた。整備兵がドリンクパックのチューブを咥えながら展望室に入っ
てきた。 軽くジャンプすると惰性で展望室の窓まで飛んだ。
「特にする事ないよ?」
 ミナは見知った整備兵にそう言った。彼の身体は壁に垂直になったままで会話を続ける。
「でも休暇をもらえるって噂だぜ」
 ミナは顔を横に曲げて整備兵の向きに合わせた。
「ほんと? ナッシュ」
 顔を触れそうなくらいまで近づけるミナに整備兵は少し焦った。
「あ? ああ、きっと、すぐお達しがあるだろうさ」
「そっか"陸"にあがれるのかぁ……」
 パイロットは再び窓の先のコロニーの目を向けた。"陸"とはコロニーの事を差す。宇宙船乗りのスラングだ。
 しかし先ほどまでの態度と変ってミナの表情が急に沈み込む。
「なんだよ? うれしくないのかよ」
「ん? うれしいよ……でも」
「でも、なんだよ?」
「なんでもない…」
「わかった。この作戦が不安なんだな。ガンダムに乗る自信がないんだ」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「当たりだな。おまえって分かり易いんだよ」
「ナッシュにはわからないよ」
 ミナは顔を背けた。ナッシュはミナの頭を軽く叩いた。
「悪い。言い過ぎた。大丈夫、お前ならやれるさ」
「……うん」
 自信無さ気に返事をするミナの声は頼りなかった。
 その時、館内放送が流れる
『ミナ・ハンサカー准尉。至急ブリーフィングルームに出頭して下さい。ミナ・ハンサカー准尉。至急……』
「ごめん、ナッシュ。行かなくっちゃ」
 ミナは無重力状態の中、壁を蹴り上げると展望室の出入り口に飛んだ。
「ああ、がんばれよ」
「うん! ありがとう!」
 ミナは壁に備え付けられた移動用のスティックを掴むと進む方向にスイッチを入れた。浮いた身体は移動するスティ
ックに引っぱられ廊下を進んでいく。
「がんばれか……」
 ナッシュはため息をついて幼馴染の後姿を見送った。



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