9、ゲルググ



 方向転換するガンダムたちがエイプリルのモニターに映し出されていた。
「ファントム?」
 ライスは受話器を掴んでいた。
「ブリッジ! 出航準備を! 私もすぐ上がる」
「艦長、ファントムの艦艇撃沈率は90%だ。モビルスーツ隊に任せて出撃は少し待て」
「なんで? エイプリルは闘う艦なのよ」
 ライスはそのまま艦橋に向ってしまった。
 リケンベは舌打ちするとマイクを握った。
「デイモン、いけるか?」
『いける? そいつはファントム捕獲ってことですかい?』
「もちろん」
『5分ですかね』
「期待してるぞ」
『任せて……とは言えないんですよね、これが』
 黒いモビルスーツが続いている爆発の光の中に消えた。
「見失った! 誰かレーダーで捉えてるか!」
 デイモンが怒鳴った。
『フレア2、駄目です!』
「くそっ!」
『フレア3! レーダーはロストしてますが見えます!』
「いいぞ! ミナ! 先頭を行って俺たちを引っぱれ」
『了解!』
 ミナのガンダムが前に出た。爆発の光の中に躊躇なく突っこんでいく。
「大尉、撃墜しちゃだめなんですよね?」
『死なない程度にしとけ』
「死なない程度?」
 ミナは120mmマシンガンをセミオートに切り替えた。
「いた……」
 ミナの視界に黒いゲルググが入る。同時にゲルググからビームが放たれた。狙いは正確だった。寸でのところでそ
れを避けたがビームの熱は左手に装備していたシールドをかする。装甲が溶かされ一瞬火花が散った。
「もらった」
 照準を合わすとトリガーを引いた。マシンガンの弾丸はゲルググに向ったが悠々とそれを交わされてしまう。
「何これ?」
『ビームとは違う! 撃つのが早すぎるんだよ。もっと接近しなければだめだ』
 デイモンの声が無線に入った。
「そんなこと今頃……」
 移動したゲルググを目で追うミナ。
『今日、教えるつもりだったんだよな、これが』
 デイモンのガンダムはマシンガンを連射した。さらにそれを避け続けるゲルググは右に移動していく。
『弾幕の網を作る! 誰か右翼から撃ち込め!』
 ハーネットがそれに呼応した。ハーネット機は回り込んで狙撃を開始した。二方向同時射撃にゲルググも反撃を試
みる余裕がないようだ。体制を立て直そうと上に逃げた。
「待ってました!」
 いつの間にか接近したミナのガンダムはゲルググの上方を取っていた! デイモンたちに気をとられていたゲルグ
グがようやくミナに気付いた。
 撃墜しないように……
 ミナはゲルググの肩に狙いを絞った。ビームライフルがミナに向けられる。
「させるか!」
 それより早くミナはトリガーを引いた! 120mm弾がゲルググの肩に被弾した。
「とどめ!」
 その時、ミナは右翼から殺気を感じた。

 何?

 黄色いビームの閃光がガンダムに向って放たれてくる。

 仲間がいたのか?

 ミナのガンダムは機体をひねりながら連射されるビームを避けた。
 反撃をしようとマシンガンを向けたミナだったが敵の姿を確認することはできなかった。殺気もすでに消えている。
「どういうこと?」
 その時、衝撃が起きた!
「うっ!」
 目の前にゲルググの機体がアップで映されている。狙撃されたゲルググが衝突をしてきたのだ。
「つっ!」
 マシンガンを向けたミナだったが銃身をつかまれ潰されてしまう。
「なら!」
 ビームサーベルに手を伸ばした。しかしその手はゲルググに掴まれてサーベルに届かない。
 頭部のマシンガンを発射した。しかしゲルググの装甲はそれを弾き返してしまった。
「こいつ……只のMS−14じゃない!」
 ゲルググの膝がコクピットに直撃しキャノピーが吹き飛んだ! 酸素が塵と共に宇宙空間に吐き出されていく。
「きゃああああ」
 モニター越しではないゲルググの姿がミナの目の前に現れる。
 ゲルググのモノアイがコクピットに焦点を合わせた。黄色い光がミナを見つめた。
「……え?」
 ゲルググがゆっくりとガンダムから離れていく。
 ミナは一瞬、何が起きているのはわからなかった。
『ミナ! 離れろ!』
 ハーネットのガンダムがビームサーベルで切り込んできた!
 ゲルググはあっさりと一撃を交わすとカプセル状の物体を放出した。
『やばい、離れろ! ミナ!』
 ハーネットはミナのガンダムを掴むとアフターバーに点火してそこから離脱した。次の瞬間、強烈な光が周囲を包み
込んだ。かく乱用の閃光弾らしい。強力な電磁波も放出しているらしくハーネットのガンダムのモニターが一瞬、乱れ
た。
「ちっ! ムカつかせる奴だぜ!」
 ハーネットはそう吐き捨てるとスロットを全開にした。悔しいが今はここからできるだけ距離を取るのが最良だった。
 デイモン機が飛び去るゲルググにマシンガンを撃ち込んでいるのが見えた。
 敵は撤退したのだ。それに気付いたハーネットはようやくスロットルを緩めた。
 ハーネットは捉まえている寮機にカメラを向けた。
 キャノピーを破損させたガンダムのコクピットの中ではミナがぐったりしているのが見えた。
「マジかよ……くそっ! リトル!」
 ハーネットはガンダムのコクピットから出るとミナのガンダムに取り付いた。中に入ってぐったりしたままのミナに近
づくハーネット。
「おい! リトル! しっかりしろ! おい!」

 緊急発進した巡洋艦エイプリルが漂うガンダムたちに接近していた。
「くそっ!」
 リケンベは拳を握りしめた。
「ちゅ、中佐?」
 珍しく感情を露にしている上官に副官が心配げに声をかけた。
「サイコミューだ! まさかあんな物まで装備してるとは……情報不足だった」
 リケンベは悔しげにモニターの宇宙空間を見た。そこには黒いゲルググの姿はもうない。

 エイプリルは破損したガンダムの収容を開始した。


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