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ミナが目を覚ましたのは病院の一室だった。
「なんでこんな所に……」
朧気に記憶が蘇ってくる。ゲルググの巨大な姿でその記憶は止まった。
そうだ……コロニーの外にいたんだ。
「気がついたみたいだな」
「ナッシュ…?」
傍に立っていたのは巡洋艦エイプリルで整備兵をしているミナの幼馴染だった。ガンダム小隊のパイロットとして配
属された時、彼と出くわした偶然は驚きだった。
ミナより二つほど歳上のナッシュは小さい時は兄のような存在だった。彼の家族が引っ越していってしまった時は
随分ショックだったのを覚えている。お互い成長して再会したわけだが今でもナッシュはあの時のようにミナを気遣っ てくれた。
「よかった。このまま目を覚まさなけりゃどうしようかと思ってたぜ」
「わたしどうなったの?」
「例の"亡霊"に撃墜されそうになった。あの時、ハーネットさんが飛びこまなかったらどうなったことか」
違う……あれは…"亡霊"が……あいつが攻撃を止めたんだ。
「その時にゲルググから出た目くらましの何かが炸裂したんだ。強烈な光と強力な電磁波。おかげでハーネットさんと
お前のガンダムは電子装置の再点検中」
「あ……ごめん」
「ミナが悪いわけじゃないさ。相手はあの"亡霊"だしな。考えてみたら奴を相手にして生還したモビルスーツはミナが
初めてなんだぜ?」
「でも、負けちゃった」
「次のチャンスがあるさ。作戦は続行中」
「うん……」
うつむくミナにナッシュは余計な事を言ったと後悔した。
「そういえばミナ、覚えてるか? 小さいころ近所にいた変なおばさん。それが驚きなんだよ! そっくりな人をここで
みかけちゃってさ」
ナッシュは話を幼いころの思い出話にした。
今はミナの心も休ませるべきだ。
ナッシュはそう思っていた。
基地の外のバーではデイモン大尉とリケンベ中佐がカウンターに座り話込んでいた。
「おれのせいだ」
そう言うとリケンベはグラスをテーブルに置いた。
「奴の能力を過小評価してた。それに情報不足。君らを不用意に投入してしまった」
「気にするな。戦場は成り行きだ」
デイモンはグラスのアルコールを飲み干すと追加オーダーをした。
「しかし貴重な機体に優秀なパイロット。このふたつを同時に失うところだったんだぞ」
「無傷では欲しいものを手に入れられんってことだよ」
「おふたりさん、何しかめっ面してるの?」
デイモンとリケンベの間に女の顔が割って入った。香水の香りが漂う。
「中佐、いいんっすか? サラミスは待機中なのでは?」
デイモンはライスが間に入り易いように席をずらす。ノースリープのブラウスに裾の短いジーンズのライス中佐の姿
は軍服姿の二人の男と随分とギャップがあった。
「いいの、いいの。私にも素敵な部下たちがいて留守を預かってくれてるわ。それより飲みましょう? ね?」
そう言うとライスは二人の間に椅子を持ってきて座り込む。
「何か深刻なこと? デイモン?」
「いや、おれよりこっちの中佐殿がね」
「私はただ自分の不手際を反省していただけだ」
ライスは大笑いしだした。
「失敗を恐れない英雄も好きだけど……」
そう言ってライスはデイモンに顔を近づけた。その後すぐ踵を返してリケンベに顔を近づける。
「過ちを認め未来の糧にできる男も魅力的」
リケンベは照れくさげに頭を掻いた。
「指揮官は部下に"死ね"と命令するものだと誰かが言ったわ。つまり犠牲無き勝利はないということよね。けど、あな
たはそれに抵抗を感じてる。軍人としてはどうかと思うけど私は好きだよ」
そう言ったライスを見ると瞳はリケンベをじっと見つめていた。その瞳は真っ直ぐでリケンベは、この女は酔っていな
いのではと思った。
「俺もそうだぜ」
横からデイモンが口を挟む。
「あら、妬かせちゃった? 大尉」
「そんなわけじゃないっすがね。中佐の下なら戦えるってことっすよ」
ライスはデイモンの腕にしがみつく。背後に流れる曲は激しく軽やかだ。
「ね、踊らない? 大尉」
「いえ、残念ですが自分は実は足を痛めてまして」
「それって命令?」
ライスは肩を竦める。
「行けよ、大尉」
リケンベはデイモンの背中を押した。
立ち上がった二人が席を離れようとすると音楽が変る。
「あら?」
曲は静かで優しいラブソングになっていた。
「あ…どうしようか?」
デイモンは照れくさそうな笑いを浮かべる。
「チークもいいんじゃない?」
そう言うとライスはデイモンの肩に手を置いた。
「……そうだな」
デイモンはライスの細い腰に手を回す。
「チークも悪くない」
病室の窓はいつの間にか暗くなっていた。
コロニー内に夜はない。時間割で太陽光の取り込みを中止し、夜の演出をしているだけに過ぎない。そこに住む人
間の体調管理の為にこの演出は必要なのだ。そうすることによって"時間"を意識する事ができる。それは遺伝子に 刷り込まれたものでもあるからだ。
ミナが意識を戻してから6時間ほどが経っていた。
ナッシュは既に"エイプリル"に帰りガンダムの修理を始めているだろう。ミナは念のため24時間、様子を見ることに
なった。医者の言う話では強烈な光とパニックによる"癲癇"的な症状だろうという言う。コクピットが破壊されゲルグ グの使った"目くらまし"を直接受けてしまったのがまずかったらしい。
次は……
ミナの脳裏に不安が浮かぶ。それを隠すかのように腕で顔を覆った。
その時、静かな病室の中で何か小さな音が聞こえた。
音は窓から聞こえた。何かが窓に当たったようだったが何も様子は変っていない。
気になったミナはベッドから起き上がって窓の前に立った。
「あっ……」
そこから見えたのは下から手を振る見覚えのある人間だった。
ロウ……ロウ・モリガン?
それは街で出会った絵描きの青年だった。
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