13、ダークスター
二稿目

 死者だけが戦争の終わりを見た――
 何故かその言葉だけが頭に残る。モビルスーツに乗り込む時はいつもそうだ。

 宇宙空間に一機の黒いモビルスーツが漂っていた。
 生命維持装置のみの最小限の電力のみを残し全て停止させていた。
 パイロットは目を閉じて、じっとその時を待っていた。
 電源の落とされたコクピットは真っ暗で何も見えない。
 ガンダム
 数日前、戦ったモビルスーツの事が彼の頭に浮かんでいた。
 RX-78連邦軍最強のモビルスーツ。それを三機も相手にした。機動性はRGM-79などより格段上だった。あの動き
には最初、手間取ったが対戦すればどうということはない。全て対処できる範囲だ。撃墜できる相手。
 だが、あの時、敵を追い詰めながらなぜ墜落せなかったのか?
 パイロットは手をヘルメットのシールドに当てた。
 ガンダムと対戦した時の映像がフラッシュバックする。開いたコクピットに見えた連邦のパイロット……見覚えのある
気がした。

 殺してはだめだ――

 あの時、確かにそう意識の介入が入った。
「何故お前は邪魔する? 」
 酷い頭痛と手足の痺れ。
 もう"ひとり"が口を出す時はいつもそうだ。
 厄介な奴だ。だが殺せない。
 何故なら奴は"自分"だから。
 忌々しい"もうひとり"

『キングよりダークスターへ――キングよりダークスターへ――』
 暗闇の中、赤いランプが点滅しだした。本隊からの通信で思いが中断される。
 力は自分の方が強いはずだと信じていた。
 しかし、最近のあいつの予想以上に意思は大きくなっている。
 そして、あの介入!
 戦闘時に身体のコントロールを一瞬、奪われた。あれで撤退せざる得なくなった。
 パイロットは思い出すと苛立ちが増した。
 何とかしないと身体が奪われる。もうひとりの自分に。こいつは上手くない。そんな事になれば作戦の遂行もできな
くなる。任務遂行こそが自分にとって"生きる証"であり目的だった。
 それを阻止する者は誰も許さない!
  
「こちらダークスター」
 パイロットはようやく返信をした。
『何かあったのか?』
「いや、何もない。ミノフの影響でよく聞き取れなかっただけだ。それよりなんだ?」
『獲物が接近中だ。コロンブス級2、サラミス級1、モビルスーツは確認できたものは4機だが他にも積載されている
可能性がある』
「了解、キング。対処できる範囲だ。いつもどおりやる」
『OK、ダークスター。グットラック!』
 コクピット内の電源が入り各計器類の照明が点灯を始めた。ほぼ同時にスクリーンに宇宙空間が映し出される。そ
の隅に小さく画面が割り込んだ。中には他の機のパイロットが映った。
「ヘンデ、起きろ、出番だ」
 モニターのパイロットは大きく背伸びをする。
『やっと出番? 待ちくたびれて寝ちゃったよ』
「出るぞ。援護を頼む」
『いつものようにだろ? 了解、任せて』
 宇宙空間を漂っていたゲルググのモノアイが点灯した。単発的に噴出すバーニヤが体勢を整えると背中の噴射ノズ
ルが一気に噴出する。
 強烈な加速に一瞬、シートに身体が押し付けられる。パイロットはそのピーキーな感触に心地よさを覚えていた。制
動性は悪くなるが彼は好んでこの急速発進を多用していた。パワーを押さえ込むような感覚が好きなのだ。
 高速で宇宙空間を移動するゲルググ。すぐに巡洋艦が輸送船を挟むように航行する船団が見えた。
 いた!
 対空砲火が始まった。慌てているのかまだ射程距離外での発射だ。
 注意を削ぐ気だな
 パイロットは左右のモニターを確認した。数機のモビルスーツたちが展開しようとしている。
「エンジェル!」
 ゲルググに並行して飛んでいたビットが方向を変えた。周囲のモビルスーツに銃口を向けるとビームを発射した。
 黄色の高熱粒子が白い機体を打ち抜く。一瞬で4機のモビルスーツが堕ちた!
 残骸の中に身を潜めるコルベット艦の艦上にドーム状の突起物があった。ビットのコントロールコクピットである。中
にいるパイロットは敵機の死を感じ取りほくそ笑んでいた。
「命中……」
 船団はパニックに陥っていた。護衛であるモビルスーツを一機に失ったからだ。生き残ったジムたちが黒いゲルグ
グを追いかける。距離が縮まった時、ゲルググは急速に反転した。
 ジムはビームサーベルを抜いた。ゲルググもビームナギナタを始動させる。
「遅い」
 切りかかるジムを腕を回転させたビームナギナタが切り落とした。切断面に火花を散らしながらジムはゲルググか
ら離れた。ビームライフルがジムを背中を打ち抜く。白いモビルスーツはピンク色の火球となった。
 仲間のジムがビームを撃ってくる。しかしビームはゲルググの手前で拡散してしまう。
 黒いゲルググはRGM−79ジムの部隊に向き直った。
「無駄だ。対ビームシールドにメガ粒子は効かないんだよ」
 RGM−79の一群に黒いゲルググが突入していく。攻撃を全て弾き返す敵に連邦軍のモビルスーツ部隊はパニッ
クに陥っていた。
「こんな相手、どうすりゃいいってんだよ!」
 一機のジムのパイロットが機体を反転させた。背後からゲルググが襲い掛かる。
「哀れだぜ! 連邦さんよぉ!」
 ゲルググの放ったメガ粒子ビームが逃げるRGM−79ジムたちの機体を貫いていった。



   目次    



トップへ
戻る