|
連邦軍の輸送船団が宇宙空間を進んでいた。
戦後、急造されたのか大型ではあるが見慣れない船体形状だった。
その航路は"問題の多い"サイド5周辺を避けた"燃料を喰う"ものだった。しかしこの日だけはいかに燃料を消費し
ようと危険は冒すわけにはいかなかった。護衛もないその船団は6隻あるうちの5隻はカモフラージュだった。一隻に は南極条約において使用を禁止された数個の"核兵器"を積み込んでいた。連邦軍が最悪な事態に備えてあるコロ ニーに隠していたものだった。連邦は秘密裏にルナツーに運び込み何事も無かったように処理するつもだった。
当然のその輸送航路も秘密で輸送作戦部外者に漏れるはずなどないはずだった。
しかし――
ジオン残党のスポンサー、ルッテンハウトの情報網には、そのコースは"筒抜け"だった。
彼の運営する会社は連邦軍の補給展開に大きく関わっているのだ。そして彼の正体は反連邦政府主義だ。
そして輸送船団がある宙域に接近した時、ある行動が開始されていた。
彼らは暗黒の宇宙に身を潜めていた。
忍耐強く寝物が傍に近づくのを獲物を待ち構えていた。
ノーマルスーツに着替えたファントムはゲルググのコクピットに乗り込むとシートに深く座り込んだ。
マルチスクリーンの小画面が映る。
『"ダークスター"、調子はどうか?』
指揮官の顔が映りダークスターと呼ばれて男の顔を見つめる。
「よくねえ、頭痛が酷い」
『いつから』
「ついさっきからだよ。薬は飲んだぜ」
『待ってろ、ドクターをまわす』
「必要ねえよ。きっとすぐ収ま……」
"ダークスター"は指揮官の背後が慌しくなるのに気がついた。
『目標が近づいたようだ。すまんな』
「大丈夫だ」
「念を押すが本当にいけるのか?』
「やってみるさ」
『そうか……グットラック、"ダークスター"いや? 今では"ファントム"と呼んだ方がしっくりくるかな?』
「ふん、つまらねえ」
『期待してる』
ルントヘット大佐はニヤリと笑うとモニターを切った。
「やってみせるさ……やるしかねえんだろ?」
格納庫のライトは消されていて誘導の為の僅かな光だけが宇宙空間への"道"を照らしていた。
闇の中から黒く塗装された特殊装備で不恰好になったジオンのモビルスーツ、MS−10ゲルググが姿を現した。
闇の中でモノアイが一瞬光る。同時に腹部のガス噴出口からガスが排気された。
格納庫のハッチが開かれ空気が一気に噴出されていった。傍にいた整備兵が手すりに捕まりながら敬礼をする。
黒いゲルググは巨大な手を頭に持っていき敬礼のポーズをとった。
「"ダークスター"ゲルググ改。出るぜ」
黒いゲルググは宇宙空間にダイヴするように艦から発進した。ゆっくりと艦の後ろにつくと用意していた宇宙空間で
のカモフラージュ用の通称"凧"と呼ばれる黒いシートを宇宙空間に広げた。ゲルググの姿は隠れ、正面から見る限 りはシートは宇宙空間の闇と同化していた。
「救難信号キャッチ!」
オペレーターの声に輸送船の艦長レインウッド少佐が振り向いた。
「レーダーは使えるか」
「濃度の濃いミノフスキー粒子が残留していますのでなんとも……」
別のオペレーターが船外の何かに気付いた。
「正面にライトの点滅を確認しました」
その声に艦長は顔をデッキの外に向けた。見ると前方で光が点滅している。一定のパターンで繰り返される点滅は
宇宙艦乗組員なら誰にでも読み取れる救助要請の合図だった。
「どうします?」
不安げなクルーの問いに艦長は頭を掻いた。
「放っておくわけにもいかんだろう。とにかく接近して状況を見る」
輸送船団は予定のコースを外れて救難信号を送る船に接近していった。
しかしそれは飢えた狼の群れの中だったのを船団のクルーは知らない。
カモフラージュの黒い"凧"を全面に広げたムサイはゆっくりと獲物に近づいていた。
既に手持ちのモビルスーツ群も既に発進済みでムサイの後方に寄り添う様に進んでいた。当然、それに隠れて機
体は正面からでは確認する事ができない。
後方につけたモビルスーツのパイロットたちは交信をせず、忍耐強く合図を待った。
「艦長、まだでしょうか?」
痺れを切らした副官が艦長のスワイン少佐に問う。
「アタックのタイミングは大佐に任せてある。我々は従うだけだ」
「少佐はあの大佐を信用しているので?」
「俺がここまで生き残ったのは偶然ではない。戦局を見抜く"直感"だ。俺の勘は、あの大佐を"やる"男だと告げてい
る」
「そうでしょうか? 自分にはどうも得体の知れない感じがして……」
「そうだな。俺も実は全部、信用しているわけではない。だが何かあればこちらの方が戦力は上だ」
スワインはそう言ってニヤリと笑った。
輸送艦ではモニターをズームアップさせていた。
「残骸が散乱しているな。何かと衝突したのか?」
クルーが映像の状況を簡単な推理をして言った。
「通信はどうか?」
「それが、雑音が酷くて」
「妙だな……ルウムの暗礁宙域からは離れているのに」
「ジオンの生き残りにでも襲われたんじゃないの?」
気の良さそうなクルーの一人がそう言った。その言葉に周りが一瞬押し黙る。そのクルーも自分の言った一言が余
計だった事に気がついた。
「通信、捕まえました!」
「スピーカーに」
艦長の言葉で通信はスピーカーに切り替えられた。
『こちらはサルベージ船"バナナフィッシュ"。海賊に襲われて航行不能に陥った。救助も求める』
通信は繰り返された。
「やはり海賊か。宇宙航行法によれば救助は最優先事項だな」
艦長は軍帽を被りなおした。
不恰好な輸送船たちはゆっくりと漂うサルベージ船に近づいていった。
その頃、サイド5のあるコロニー……
住宅地から離れた場所にその豪邸は建てられていた。
それはサイド5の有力者で資産家でもあるルッテンハウトの家だった。金に糸目をつけてないようなゴシック調の建
物は彼が"特別"だというステータスの証でもあった。
建物の周りは大きな柵で囲まれていたが、その道路沿いには数台の黒いバンが停まっていた。見たような会社の
名前が書き込まれたボディだったがその中はまるで違う目的の為に集まった人間たちがいた。
「監視カメラのシステムに入った…他のセキュリティーも……」
コンピューターのキーボードを叩き終えた若い男が言った。
モニターの画面が一気に切り替わる。
「制圧完了」
男は眼鏡を掛け直すと得意げにそう言った。
「各ユニットスタンバイ。合図を待て」
傍に立っていたリーダーらしき男が手に持ったトランシーバーに向って言った。
「よし、やれ」
それを合図にコンピューターのキーボードが再び叩かれ始める。屋敷内のカメラの映す画面は瞬きする間に静止画
面に切り替えられた。
アサルトライフルを構えたアーマースーツの隊員が突入を見計らう。
「ユニット、"眼"と"耳"を奪った。突入開始!」
情報部の人間の合図と共に戦闘部隊が屋敷に突入が開始された。訓練して動きで素早く出入り口から侵入してい
く。
「抵抗するな!」
ボディガードの殆んどは突然の奇襲に抵抗もしなく手を上げたが数人がそれを拒んだ。
銃に手をかけようとした瞬間、あるいはそれに似た仕草をした時、特殊部隊の隊員は躊躇なく引き金を引いた。
「クリア!」
屋敷の各所を制圧するごとに声がかけられる。ものの数分も立たないうちに屋敷は特殊部隊によって完全掌握さ
れてしまう。
鍵の掛かったドアが乱暴に蹴破られる。
「動くな!」
アサルトライフルを構えながら突入していく数名の隊員。だがその部屋にいたのは椅子に座った老人ひとりだけだ
った。
「騒がしいな」
老人は静かに言った。
「ルッテンハウトか?」
隊員の一人がライフルを構えたまま言う。
老人はゆっくりと頷いた。
「逮捕状が出ています。大人しく同行してください」
攻撃的な様子とは裏腹に言葉は丁重だった。
「何の容疑だね」
「テロ行為の幇助と違法な取引の疑いです」
ルッテンハウトは薄ら笑いを浮かべた。
「連邦はこの老人に夢もみせてくれんのか」
ルッテンハウトは椅子から動こうとしなかった。
「ミスタールッテンハウト、どうか我々にご同行を……」
その時、隊員はルッテンハウトの右手に握られた何かの装置に気がついた。
ルッテンハウトの表情は連行されえるというのに勝ち誇った表情だ。
なぜ笑う?
その時、手に持った装置とが彼の頭の中でリンクした。
これは危険な事なのだ。
「危ない! 下がれ! 下がるんだ!」
危険を察した隊員は他の隊員を押し出すように叫んだ。
次の瞬間、部屋は光と炎に包まれた。
爆発の轟音が響いた。ガラスを吹き飛ばしながら黒い爆煙が上がる。
それはジオンの亡霊の一人の最後だった。
|