2



「というわけで行ってきまーす」
 キーラとクリスタルは屋敷の外から手を振った。
「なんで私を連れて行ってくれないんですかーっ!」
 ドアの前ではポットが激しく跳ね回っている。
「だってチケット二人分しかないんだもん」
「私はポットです。誤魔化せて入り込めるのではないのでしょうか、お嬢様! あ!今、舌打ちしたでしょ? キーラさ
ま? キーラさまー」
 騒ぐポットを置き去りにしてキーラとクリスタルは森の中に消えていった。
 二人が向った先はこの国での一大行事といえる音楽の一大イベント。
 その名も"ウッド・スコップ"
 国中の音楽家が集まって自分達の曲を披露するお祭りの様なものだ。その期間は数日にも及ぶ。会場となる街は
連日のお祭り騒ぎなのだ。
 今年、キーラはお気に入りの音楽家がエントリーしているのを知ってクリスタルを誘って"ウッド・スコップ"に行く事
にしたのだ。

 森を抜けると大きな空き地に出た。
 真ん中には大きなストーン・サークルがある。人の大きさほどの石を円状に囲んで並べたその場所はある乗り物の
通り道になっていた。空間を突き抜けどこへでも繋がっている魔法の列車グリフォン・トレイン。ストーンサークルはそ
の中継点となっていた。
 キーラたちの住む場所に設営されたストーン・サークルはたまにきかやって来ない田舎の駅にあたるが今日だけは
ある場所に向う為の臨時便が発車している。
 その目的地は"ウッド・スコップ"。一年に一度のお祭りの場所だ。

「あっ、もう誰かいるじゃん」
 ストーン・サークルに近づくと誰かが先に座っていた。おそらく目的地は同じだろう。
 そこにいたのは眼鏡をかけた気弱そうな青年だった。足元にギターを立てかけている。その傍に空いた石に座るキ
ーラとクリスタル。途中、眼鏡の青年と目が合ったが青年は慌てて目を逸らす。キーラは気にも止めずに青年の横に
座った。

「ナンだか、かわいそくない? ポット」
 横に座ったクリスタルがいう。
「いいよ、いいよ。あいつは連れ歩くとうるさい過ぎだから」
「そうかしら」
「そうよ」
「それより切符は?」
「買ってあるよ。"ポイント・プレザント"発"ウッド・スコップ"行き」
 クリスタルは切符を一枚キーラに渡した。
 切符に書かれた列車のナンバー666。
 キーラは露骨に嫌そうな顔をしてクリスタルを見た。
「他の便はなかったの?」
「いや、なんか番号が気に入って」
「でも666って……」
「だめ?」
「いや、だめじゃないけど、だめじゃないけど……なんか縁起悪そ」
 その言葉を聞いたクリスタルは涙目になる。
「このナンバーって私の好きな数字だったのに……好きだったのに……それを縁起悪ってーっ」
 感極まって口を押さえるクリスタル。
「わーっうそうそ! 別に縁起悪くないって! クリスごめーん。列車で寝たら悪夢見そうだけど縁起悪くないって」
 キーラは泣き出しそうなクリスタルに抱きついた。
「ほんとに?」
「ほんと、ほんと」
 その時、ギターの音色が聞こえてきた。
 奏でられる穏やかで切ないメロディ。
 キーラとクリスタルは音色の方を見た。そこではさっきの若者がギターを弾いている。その優しいメロディに聞き入り
二人は若者の方をじっと見つめてしまっていた。
 視線に気付き弾くのを止める若者は、ハッとしたように顔を上げた。
 思わず拍手をする二人。
「ど、どうも。なんだかそっちのが悲しそうだったから……つい」
 照れながら頭を下げる若者。
「へっ? 私の事?」
 クリスタルは見知らぬ人の気遣いに少し驚いた。
「素敵な曲。あなたが作ったの?」
 曲に感激したキーラは拍手をしながら訊ねた。
「え? まあ、そうです。まだ未完なんですけどね」
 そう言ってずれた眼鏡を掛けなおす若者。よく見ると中々の美形だ。
「素敵……」
 キーラの目が光った。
 その反応に気付いたクリスタルは腕でキーラを突きながら小声で言う。
「ねえ、良く見るとあの人って結構イケてない?」
 黙って頷くだけのキーラ。
 クリスタルは長年の付き合いでキーラの反応で気持ちが分かる。とゆうかキーラの場合付き合いが浅くても分かり
易い。
「スイッチはいったわね、あんた」
 キーラは黙って親指をグっと立てた。

 その時、ストーンサークルの中心が光りだした!
 聞こえてくるエンジン音。
 魔法の列車グリフォン・トレインの到着だ。
「時間みたいですね」
 若者はギターを抱えて立ち上がるとズボンの埃をはらっだ。
 光の中から黒い列車が天に向って飛び出した。
「おー来た来た」
 列車を見上げる三人。
 グリフォン・トレインは宙をー回転した後、地上に向って降りてくる。地上すれすれで減速するとキーラたちの前でピ
タリと停車した。
「静かの森〜、静かの森〜」
 気の抜けた声が響くと車掌らしき格好の男が出入り口から顔を出した。
「乗車のお客様は乗りをお急ぎください」
 キーラとクリスタルは石から飛び降りると車掌のところに向った。
「乗りまーす」
 車掌はキーラたちを見て驚く。
「お嬢さん方、この便に乗るんで?」
「え? だって"ウッド・スコップ"行きでしょ? これって」
 車掌は帽子を上に上げると困ったような顔で言う。
「まあ、そうなんですがねぇ……でも」
「だったら乗せてよ。切符あるし」
「そうですよね。はい、確認いたしましたんでお乗りください。だけど気をつけてください……」
 車掌のは、いかにも気の毒そうに、という表情で三人を招き入れた。
「何よ、なんか感じ悪くない?」
「そうね。でも何故かしら……」
 文句を言いながら列車に乗り込こむ二人。その後に眼鏡の若者も続く。
 そして車両のドアを開けると、とんでもない光景が二人の前に現れた。
 
 轟く重低音!
 最初に聞こえてきたのはまず"DHE"という叫び声だ
「な、なんじゃこりゃぁ」
 車両の中には上半身裸でタトゥーだらけの男たちだった。中には服を着ている者もいたが黒皮に武器の様な金具を
つけている。とてもデンジャラスでハードコアだ。誰もが騒ぎまくり物が飛び交っている。所々で喧嘩が起きている…と
いうより殆んど喧嘩状態。その中に流れる曲はとってもハード。再び"DHE"と叫びまくってる低い声が耳に残る。

「わ、悪い夢見そう」
「同感」
 呆気に取られる二人。
「この列車ってもしかして」
 後ろから青年が顔を出した。
「何か知ってるんですか?」
 キーラが訊ねる。
「ええ。毎年、"ウッド・スコップ"に向う列車の中に荒っぽい乗客専用の便があるって」
「なにそれ?」
 キーラは呆れて目を丸くした。
「ケンカが多いんで一般の乗客に迷惑が掛からないように魔法鉄道が配慮したらしいんですけどね。その車両のナン
バー666。誰が呼んだかその列車の事をKENKA鉄道666」
 顔を見合わせるキーラとクリスタル。
「僕は切符がそれしか残ってなくて…迂闊だったなあ。今気がつきましたよ。あなたたちも?」
「はははは……この数字が好きだったんで」
 頭を掻いて笑って誤魔化すクリスタル。横でキーラが冷やかに見つめている。
「そうですか、どちらにしろ知らずに乗ってしまったんですよね。気をつけて下さい。何しろケンカが多くて有名な列車
ですから」
「そ、そうですか」
 ため息をついたキーラは空いてる席を探して進んだ。
「あっ あそこ空いてるんじゃない?」
 キーラが指差すと席は確かに空いていた。
「すみませーん、ちょっとごめんなさーい」
 そう声をかけながら騒がしい客を掻き分けながら席を目指すキーラたち三人。
 途中、紙コップやトイレットペーパーが頭に当たる。
「なんかあったまくんな〜」
「我慢だよ。キーラ」
「そうなんだけどね、そうなんだけど……」
 ようやく席にたどり着いたときキーラに何かが飛んできた。
 布の様なそれはキーラの顔にすっぽりかぶさる。
「何? これ」
 目の前が見えなくなったキーラは顔にかぶさった物を手に取った。
「キーラ、それって……」
「ん?」
 顔から取ったそれを見たキーラの顔が急激に赤くなっていく。
「こここここれは……」
 キーラの手が震える。
「キ、キーラさん?」
 キーラの顔を見た若者がその表情に焦る。というより少し怯えているようだ。
 クリスタルは、やっちゃったみたいな顔で片手で自分の両目を覆っていた。
「パパパパパパ、パン○〜っ?」
 キーラの中で何かが弾けた。


 列車はトンネルに突入した。
 暗闇の中に大勢の叫び声と何かが壊れる音が響き渡っていた。



   目次   



トップへ
戻る