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四稿目
世界は混沌としていた―
人間と魔物は混在し、魔力が存在した。そして、それを扱う魔法使いたちがいた。
そんな世界の物語……
晴天の青空の中に黒い雲がひとつ、信じられないスピードで移動していた。
それに気がついた者は鳥なのかと眼を凝らしてはみるがやはり雲だ。風に逆らい進む雲。多くの人々はこのおかし
な物体に首をかしげるだけだった。
黒い雲は繁華街までやってくると目立たない路地裏に降下していった。地面まで下がった黒い雲はいきなりはじけ
飛び、中から人が飛び出した。
「痛ってて……」
地面に転がった人影はおしりを押さえながら立ち上がった。
「な、なんとか着き真ましたな、キーラお嬢様」
そう呼びかけられた若い女性は自分の足元を見た。そこには白い陶器製のポットが転がっていた。
「す、すみませんが起こしてもらえますか? 私、このままでは動きがとれませんので」
不思議なことに陶器のポットは女に向って話し続けた。白く細い指は転がるポットを掴むと地面に置きなおす。
「はい、これでいいでしょ」
「ありがとうございます。お嬢様!」
置かれた白いポットは喜びを表すかのように飛び跳ねた、まるで生きてるようだ。
「しかし、相変わらずに荒い運転ですなーぁ。私砕け散るかと思いましたよ」
「しかたないでしょ? 久しぶりだったんだから」
キーラはそういうとポケットから小さな小瓶を出した。指をパチンと弾くと辺りに漂っていた黒い雲が一気に吸い込ま
れていった。
「ご苦労様!」
そう言ってキーラは小瓶に蓋をした。
「お嬢様、もう少し魔法のバリエーションを増やしませんと」
「いいじゃない、着いたんだから」
「いや、一流の魔法使いになる為にはこのような移動際しても瞬敏かつ繊細な……あ? お嬢様?」
キーラはすたすたと表通りに向っていた。置いてかれたポットは慌てた。小さな身体が跳ねながらキーラの後を追
う。
「お嬢様ー……あっ」
ポットは小石につまずいて倒れた。起き上がれず再びジタバタする。
「む、無念」
またまたポットの身体が持ち上げられた。
「ありがとうございます。キーラお嬢様! このご恩は一生、わすれません」
「大げさな……あんた、いっつも転がっては私に助け起こされてるじゃない」
「そうでした。でも、だから私はこうしてキーラ様に御使いしているのです」
「はいはい、きりがないからいくよ」
キーラはポットを抱えると賑やかな表通りに飛び出していった。
行き交う人の多さに思わず目を止める。
「わお、やっぱ賑やかだねー」
普段は人里離れた森の奥深くに暮らす魔法使いのキーラにとってこの人の多さは大いに興味を引くと同時に感激し
ていた。
多くの魔法使いの中には人の生活圏から離れて暮らす者い。キーラもその一人だった。
理由は様々だが俗気の多い人間の世界より精霊も暮らす森深く、あるいは山奥の方が魔力を維持できる、という
のが一般的な説だったが実際のところ真実かどうかは定かではない。
キーラに関していえば親の残してくれた屋敷が"偶々"森の深くにあったという理由だった。
本人は賑やかな人間の街に、いつか引っ越したかったが、この喋るポット以下、周囲の者たちから猛反対にあって
いて中々実行できずにいる。
それが今日に限っては久しぶりに"森の屋敷"から出て、人間の街にやって来ていた。
お買い物の為である……
「さーって、何を買おうかしら。"エルメズ"に"クッチ"……うーん、楽しみ♪」
「お嬢様。無駄遣いはお止めになってください」
キーラの手に持った白いポットがそう言った。外見は、お茶やお湯を入れる陶器だったがそのポットはそれだけでは
なくキーラに文句を言っている。
「必要ない物は極力、お買いにならないように」
さらにポットは、そうクギを刺しす。街に入るまでの道のりで度々聞かされてきた文句だがキーラもさすがにうんざり
していた。
この口数の多い彼の名前は"ポット"。
太古の魔法使いが戯れに作った魔法の陶器(マジックセラミック)で意志を持っている。
キーラの家に代々伝わるっていた"道具"だったがいつの間にか執事的な仕事ををこなすようになっていた。いわば
キーラのお目付け役的な存在だ。
「うるさいわね。買う物は重要ではないわ。買う事が重要なのよ!」
「……だから、そーゆーのが無駄遣いなのでございます」
「無駄遣い上等!」
「お嬢様ぁ……」
ポットは哀しげな目で訴えたがキーラは目を合わせない。買い物する気、満々のようだ。
途中、周りの視線にキーラは気付いた。
「はっ……!」
考えてみれば抱えたポットに話しかける姿は少し……いや、だいぶ変だ! 周りにはクスクスと笑う者、中には哀
れんだ目で見る者もいる。キーラは顔を真っ赤にしてその場を早足で立ち去った。
「お嬢様? 聞いてます? お嬢様ーぁ」
キーラは近くのショップへ飛び込んだ。
数十分後――
「お買い上げ、ありがとうございまーす」
店から出たキーラの肩には"エルメズ"のバッグがかかっていた。
「わたくしこの状態はとっても不満でございます……」
キーラの持った"エルメズ"のバックの中からそう声がした。
「いいじゃない。エルメズよ、エルメズ。光栄に思いなさい。それに普通にポットに話しかけてたら私、イタイ人に見え
ちゃうでしょ?」
「しかし、これではわたくし、外が見えません」
「何よ! 散々、外出は嫌がってたくせに! いざ出るとそんな事言うわけ? このワガママポット、ワガポット」
「そんな造語、言われてもせっかく外に出たのですから好奇心ってものがふつふつと…あら? お嬢様? ぎゃ!」
ポットの入ったバッグが道端に放り出された。横ではキーラが尻もちをついている。
「痛ったーい……どこ見てんのよ!」
お尻をさすりながらキーラ怒鳴った。
「すみません、お嬢さん。道を急いでいたもので」
「何が急いでたよ。前をちゃんと……え?」
キーラに手を差し出したのはサラサラと流れるような茶髪に心を和ませるような優しい瞳の若者だった。
「ちゃんと……見ていなかった私の不注意でした。申し訳ありません」
心からすまなそうなな顔をして手を差し出すその姿にキーラのハートがときめいた。
(ひゃーーーー!)
キーラはその手を掴むと立ち上がった。
「いえ、私の方の不注意です。あなたの服を汚してしまって。バッグも……」
「あんなバッグ、大したものは入ってないからいいです」
「……お嬢様? それはもしかして私のことですか?」
「なんです?」
「い、いえ、空耳じゃないんですか?」そう言うとキーラはポットの入ったバッグを放り投げた。かすかに叫び声が聞こ
えた。
「……あれ、あなたのでしょ? いいのですか?」
「ああ、大したものは入ってないからいいですよ。それより私、実はこの街に着いたばかりで様子がよくわからないん
です。ご案内してくれたら嬉しいですわ♪」
「えっ? でも」
「あいたた…お尻がいたたた。さっき転んだとこが……」
いきなり苦悶の表情で身体を曲げるキーラに若者は困った顔をした。
「……ああ、では少し案内しましょうか」
「本当ですか? うれしい」
「あの…身体の方は?」
「治りました。急に」
「よ、よかったですね……」
なんていい人なんでしょう♪ それにイケメン。こんな人とフレンドリーになれたら最高……というかフレンドリーにな
って見せるわ! 必要以上に!
「何故、拳を握り締めていらっしゃるのですか?」
「え? ああ……ははは」
キーラは慌てて手を後ろに隠して愛想笑いをした。
「ストレッチです。最近、身体が固くて……」
「ははは。なんだか愉快な人ですね」
「よ、よくそう言われます。チャームポイントってやつかな」
「ふふ、では行きましょうか?」
「はい、行きましょう」
照れながら顔を上げるキーラは若者の表情が変っているのに気がついた。
「……どうしました?」
「すみません、お嬢さん。急用ができてしまったのでまた今度」
そう言うと若者は逃げるようにその場を去った。
「え? え? なんで?」
呆然と立ち尽くすキーラ。
そんな流れだった? そんな流れ? 私って何かNGな事したぁ?
頭の中で自問自答するキーラの肩を誰かが勢い良くぶつかった。
「痛っ!」
ぶつかった男は何も返事をしなかった。そのまま先を行こうとしている。
「ちょっと!」
キーラの文句を無視して先を行く男はどうやらただの住民ではない。軽装の甲冑を着込み、剣を腰に差したその姿
は兵士だ。
「何よ! 謝ってもいいでしょ? おわっ!」
いきり立つキーラを押しのけるように横を同じ装備の男達が通り過ぎていく。皆、若者の後を追っていった。
どういうこと?
兵士たちを目で追うキーラに前にバッグが差し出された。
「ありがと……ん?」
バッグを差し出していたのは黒髪にバンダナを巻いた若い女だった。
「キーラじゃない?」
彼女は笑顔で、そう声をかけてきた。
「クリスタル?」
「わーっ! キーラ! ひっさいぶり〜ぃ♪」
「えー! 何? 魔法学校以来じゃない。元気ーぃ!」
道の真ん中で二人は肩を抱き合ってはしゃいだ。
「……お嬢様、なにやら、振り回されてるようですが…一体、私に何が……うっ目が回る」
無視してお互いを懐かしむ二人だった。
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