1、ある日のこと

「なんだよ! くそっ!」

 腹立ち紛れに黄色と赤のボタンが叩かれる。
「ほら、代われよ啓太。俺がリベンジしてやるって」
 髪の毛を茶色に染めた少年が不服そうな顔でテーブルゲームの席から立ち上がった。その友人は席に座ると硬貨
を投入口に入れて早速、ゲームを開始していた。

『 レディー、ゴー!』

 その様子をぼんやり眺めなている最中、宅間啓太は視界の中の見慣れないアトラクションに気がついた。
「占い館"紗璃"……さる?」
 横を見ると連れの方は、まだゲームに熱中している。
「いっけよ! おら!」
 啓太はこっそりその場を離れ奇妙なアトラクションの方へ向った。
 テントは葵色の下地に星型マークがちりばめられたシートで作られていた。


 何でも占います。―占い館 紗璃―


 入り口らしきマジックで手書きされたボードがかかっているがあまりにも安っぽい。
 啓太は少し考えたが、意を決して中に入っていった。
「すみません……あっ」
 中では長髪の若い女がカップ麺の麺を口に入れる瞬間だった。目が合ったまましばらく沈黙が続く。
「あの、で直します」
「まって!」
 出て行こうとする啓太を呼び止めた女はカップ麺を急いでテーブルの下に隠すと何事もなかった様に微笑んだ。
「いいんですか?」
「はいはい。ちょっとお腹が空いてたんで。でもいいです! お客様優先だし。占い館"紗璃"(さり)にようこそ。私は
館の占い師で紗璃と申します」
 女はわざとらしいくらい満々の笑みを浮かべた。
「"さる"じゃないんだ……」
「はい?」
「い、いえ、なんでもないです。あの、占い、いいですか?」
「もちろん! だって占い館だし。ささ、おかけくださいな」
 そう言って紗璃が手で指す椅子に啓太は座った。
「さて! 何を占いましょうか」
 紗璃と名乗る女は気合をいれたかったのかネイルアートを施した指をポキポキと鳴らしてみせる。
 なんだか思っていたイメージと違うな、と啓太は思った。
「あ? えっと……あの、進路の事を」
「ああ、進路ね。見たところ学生さんよね。多いんですよ。学生さんの進路相談。先生じゃないっつーの、うちは」
 啓太は気まずそうに愛想笑いをした。
「ははは。いえ、ほんの冗談だから聞かなかった事にしてね。その次に多いのは恋の悩みなんだけど」
「えっ?」
 啓太はそのキーワードにドキっとした。実は彼の占いして欲しかったのはむしろそっちだったのだから。
「はい? どうしました?」
「い、いえ。なんでもないです」
「あっつそう。では占います」
 紗璃はカードを取り出すとそれをシャッフルしだした。
( タロットカードじゃないんだな…… )
 啓太がそう思った途端だった。
「タロットカードは雰囲気がでるんだけど、好みじゃなくてね」
 紗璃は啓太の考えが分かるかの様にそう言った。
「え?」
「どのカードにどんな意味を持たせるかは占いする者次第ってことだと思うんですよ。カードはあくまでも選択すべき
未来を感知する為の手段に過ぎないんで」
 そう言ってにこりと笑う紗璃。
「あの、すみません」
 紗璃は啓太の方を見た。
「なんで僕の思っていた事が分かったの?」
「いや、ずっとカード見てたから、かなーって思ってね」
 涼しい顔でそう言う紗璃はカードをシャッフルし続ける。
 啓太は不思議な思いに囚われながらもカードを切る紗璃を見た。

 よく見るとキレイな人だよな……ちょっと変だけど。

 啓太の視線に気がついた紗璃はにこりと笑った。
 少し恥かしくなり視線をそむける啓太。それに紗璃が切り出した。
「ねえ、あなた、本当は別の事を占って欲しいんじゃない?」
 その言葉にどきりとする啓太。
「どうなの?」
 どうにもこの紗璃という占い師は啓太の心を見透かしてるようだ。
「は、はい実は、あの恋について……ちょっと」
 照れながらそう言う啓太を見て紗璃は目を輝かした。
「そう!そう! そういう楽しい占いじゃないとねぇ。だったら最初からそう言えば良いじゃない。もう! それってもし
かした思春期って奴?」
「はあ、すみません」
 啓太は申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいって。じゃあ、そっちを占うということで」
「お願いします」
 小さな声で頷く啓太。
 紗璃はカードを揃え直した後、再びカードを切り始めた。やがて一枚を引き抜くとテーブルの上に置いた。


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