5、眠るライオン(1)



 戦闘を終えたガンダムがベースに次々と帰還してきた。
 一機のガンダムなどは頭部が見る影も無く損傷している。
「激戦だったようだな」
 戦闘指揮車から降りてきたカスター中佐に総指揮官のレイス大佐がそう声をかけた。
「油断しました。恐ろしく機動性の高いドムが一機。そのせいです」
「まあ、致命傷にはなっていない。何よりも部隊を助けてくれたのには感謝する。恐らく、君ら以外だったら、被害はも
っと高かったろう」
 世辞ではなくレイス大佐の本音だった。
「恐れ入ります」
「至急、破損機の修理をさせよう。作戦が控えてるしな」
「作戦?」
「鉱山基地に総攻撃をかける」
「総攻撃ですか」
「その際には中佐の部隊にも大いに活躍してもらいたい」
「それについてですが少しお話しておきたい事が……」
「なんだ?」
「我々がここに派遣された件です」
「それなら予想はつく。あの欲深いアイシード将軍がジャブローのおエライさんにでも鼻薬を嗅がせたんだろ?」
「それは表向きです」
 レイス大佐は眉をしかめた。
「どういう事だ?」
「実は事態は、より深刻なのです」
 表情の薄いカスター中佐の眉間に僅かしわが寄っていた。





 月が白く淡い光を放ちアフリカの大地を照らしていた。
 今夜は満月だった。
 気のせいかいつもよりも感覚が研ぎ澄まされてる気がする。
 エミーヌは月を見上げながらそう思った。
 待遇は改善されていた。窓のある部屋を与えられ口に合わないながらも食事を与えられるようになっていた。基地
の司令官の真意は分からないが、銃殺の恐れはしばらく無さそうだ。
 その時、目の前を巨大な影が遮る。
「うわっ!」
 月明かりをシルエットに一つ目の淡いピンクの光がエミールの方を向く。
 それはジオン軍のモビルスーツだった。モノアイは、しばらくエミールの方を見ていたが突然、頭部を窓に近づけて
きた。
「きゃっ!」
 いきなりの事にエミールは後ろに引っくり返ってしまった。
『はははっ!』
 スピーカー越しの笑い声が聞こえてきた。
「誰なの?」
 その場にしゃがみこんでいたエミールは、窓越しにモビルスーツを見上げた。
『何を引っくり返ってるんだぁ? お嬢様』
 どこかで聞き覚えのある声だ。
「あなた、昼間会ったジオン兵ね?」
 エミールはモビルスーツのモノアイを睨みつける。
『ああ、覚えていてくれたのか? あの"下っ端"だよ』
 モニターに映るエミールに向ってショーンはにやりと笑った。
「なによ! 仕返しのつもり? 大人気ない」
『大人気なくて結構。ムカついたらやり返すのが信条なんだ』
「ガキ!」
『が、ガキ?』
「そうよ! あんたってどうしようもないクソガキよ! つまんない仕返しなんかして」
『うるせえ! セレブかなんかしらねえが、ここはあんたのようなお嬢様が来るとこじゃねーぜ』
「ここは私の物なの! あんたこそ出ていきなさい!」
『寝ぼけた事言ってんじゃねえ!」
 そのやり取りをドムの足元で聞いていたレイリッヒは眉をしかめながら見上げていた。
「ショーン! 遊んでないで、早くメンテナンスに行け!」
『しょ、少尉?』
「あんたもだ! お嬢さん! ウチの部下を刺激しないでくれないか!」
 子供を諭すようなレイリッヒ少尉の口調にエミールは自分のしていた事が急に恥かしくなってしまう。
「べ、別に刺激なんかしてないわよ」
 エミールは、そう言ってさっさと窓を閉じるとカーテンを引いてしまった。
 その様子を見てショーンは「ふん」と鼻を鳴らす。
「ほら! ショーン! さっさと行け」
 レイリッヒの怒鳴り声にMS−09Sドムは機体を建物から離す。
『了解。少尉』
 ショーンはそう告げるとドムを整備ドームに向けた。
 モビルスーツの去った後、レイリッヒは頭を掻きながらため息をついた。
「まったく……どっちもガキだって」




 その頃、鉱山基地の司令官であるダッソー中佐は暗号通信を受け取っていた。
 書面化した暗号通信の書類を運んできた部下が部屋から出て行った。
 文面を読んだダッソー中佐の表情が変っていく。
「"眠れる獅子を起こせ"……だと?」
 ダッソーは深刻な顔つきでそう呟いた。


   目次    



トップへ
戻る