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The cake is disliked

(二稿目)


「大したことないわね」
 目の前にいた大柄の騎士が煙を吹きながら倒れた。
「ま、まいった」
 負けを認めた騎士を見下ろしたロングヘアの魔女は手をカンタンにはらうと颯爽と踵を返した。
 さて、ここはある国のお城。
 親しい森の魔女を招いていたのだが、話のはずみで城を守る騎士たちと魔法使いとではどちらが強いのか?という事になり王様たちの前で勝負をする事になってしまった。
 結果はさっきの通り森の魔女の圧勝だ。
「すごいわ、キーラさま」
 王様の横で王女のジュエールが手を叩いて喜ぶ。森の魔女とはある事件後親しい間柄になっていた。王女の方は魔女を姉のように慕っている。
 ところが王様の方は、先の事件で魔女に恥をかかされたのであまり快く思っていなかった。もともとこの馬鹿げた試合も魔女の鼻をあかしてやろうと企んだものだが結果はいいとこなしで終わってしまった。
 うれしそうな姫の横で王様も不本意ながら手を叩いて魔女の勝利を称えた。
「さすが森の魔女様だ。我が騎士団最強の者もいとも簡単に倒された」
 王様の褒め言葉に魔女キーラも照れくさそうに頭を掻く。
「強いといっても肉体の力や剣技ですもの。魔法は物理的法則を覆すもの。戦うこと自体、無意味ですわ」
「なるほど」
 王様は顎髭をさすりながら考えた。そしてある質問をする。
「という事は、キーラ様には騎士団の英雄がいくら束にかかっても歯がたたないと?」
「物理的な力に頼っている限りは」
「槍も剣も意味をなさぬと申すか?」
 キーラは肩をすくめてみせた。
 背後に控えている騎士団に騎士たちは気まずそうに顔を見合す。最強の者があっさりと倒されては反論の余地はない。
「では、魔女殿には怖いものなどありませぬな」
 キーラは、少し考えてから口を開いた。
「いえ、ひとつだけございます」
 王様は耳を疑った。
「最強の騎士を倒すお人でも怖いものがあるですと?」
「ええ、まあ」
 キーラは照れくさそうに鼻の頭を掻いた。
「それは火の山の竜ですか? それとも地獄に潜む悪魔ですか?」
「いえ、ぜんせん違います」
「一体、何ですか?」
「それは秘密です」
 そう言ってキーラはにっこりとほほ笑んだ。


 *  *  *  *


 その日、キーラは城に泊まった。
 久しぶりに会った親しい王女のたっての頼みだった。姉の様にしたうキーラが城に来てくれたのがうれしいらしい。少しでも長く一緒にいていろいろと積もる話をしたかったのである
 王様といえば娘である王女の嬉しそうな顔をみるのはよかったが自慢の騎士団をコケにされたのは悔しくてしかたがなかった。
「ふん! あの森の魔女め。いい気になりおって」
「王が望まれた試合ですが」
 隣にいた家臣が突っ込む。
「そうだけども、なんか悔しいぞ」
 そう言って王様は不機嫌そうな顔をし頬杖をついた。
「お気持ちは分かりますが、相手が魔法では仕方がありません」
「むう。だが何か納得がいかぬね。あの森の魔女の鼻をあかす手はないだろか?」
 王様は納得いかなそうな顔でそう言った。
 その時、家臣の中の一人が口を開いた。
「キーラさまにも苦手なものはある筈です。それを突き止めましょう」
「まあ、吸血鬼に十字架。狼男に銀の銃弾。魔女にも苦手な物のひとつはあるだろうが」
 王様は家臣の提案に興味を示した。
「だが、どうやってそれを突きとめる?」
「私に考えがございます」
 そう言ってその家臣はにやりとした。


 *  *  *  *


「キーラ様の苦手なもの?」
 家臣の言葉に王女のジュエールは小首をかしげる。
「はい、実はキーラ様を驚かそうとビックリパーティーを企画しておりまして」
「ビックリパーティー?」
「はい。何度も王女や王を助けてくれたお礼にと思いまして。キーラ様を驚かした方がパーティー的に盛り上がるのではないかと思いますので」
「その為に、私に聞き出せと言うのですか?」
 家臣は頷いた。
「でも、キーラ様を驚かすなんて」
「いえ、姫様。そのくらいやった方が、お喜びになるものですよ、姫様も内心、キーラ様の驚く顔を見てみたいのでは?」
「言われてみればちょっとそうかも……」
 ジュエール姫はそう言って悪戯っぽい笑いを浮かべる。
「なら、お願い致しますよ、姫様」
 家臣の説得に折れたジュエールはキーラの"怖いもの"を聞き出す事に決めた。


 *  *  *  *


「私が怖いものもの?」
「はい」
 ジュエール姫は言われたとおりにキーラの恐れる物を聞き出そうとした。
「そんな事いきなり言われても」
「何かあるんではないですの? 私は実は乗馬が怖い」
「へえ、そうなんだ」
 キーラは意外そうな顔でジェール姫を見た。
「私も教えたのですからキーラ様もお教えください。でなければ不公平」
 そう言ってジュエール姫は頬を膨らませた。
「ああ、そうかも」
 キーラが困り顔でそう言う。
「では、教えて下さいな」
「いいけど……でも、なんでそんなに私の苦手な物を聞きたいわけ?」
「ああ、それは家臣の者に頼まれ……あっ!」
 ジュエール姫は慌てて口を手で押さえた。
「家臣の人に?」
 キーラの片眉が歪む。
「いや、その……えへへ」
 笑ってごまかそうとするジュエールを胡散臭そうな目で見るキーラ。
「家臣の人がねえ……でも、なんでそんな事知りたいのかしら?」
「キーラ様を驚かせたいのだとか……あっ!」
 また、慌てて口を押さえるジュエール。
「ジュエール。あんた憎めないくらい、いい子だわ。だから好きよ」
 でも、この娘に内緒話だけはしないでおこうと思うキーラだった。
「私もキーラ様大好きです。えへへ」
「うーん、でも何か裏がありそうな気がするんだけどな」
「そうですか? きっと気のせいですわ」
 キーラは指を口元に当てながら考えた。
「まあ、いいわ。教えてあげる」
「ほんとに?」
「ええ。そうね、私の苦手な物は……」


 *  *  *  *


 次の日の晩さん会。
 テーブルの上には豪華なj料理が並べられている。
 王女の隣に座るキーラも美味しそうな料理にほくほく顔だ。
 豪華な宴は始まり、楽しい時間が過ぎて行った。
 宴も中盤に来た時、様子をうかがっていた王様が切りだす。
「ところで、キーラ殿にお出ししたいモノがあります」
 王様の突然の言葉にキーラもフォークを止める。
「え?」
 王様はにやにやしながらお供の者たちに合図した。キーラの目の前のテーブルに銀のプレートカバーをかぶせた皿が出される。
「無敵の魔女殿にも苦手な物があるとは意外ですな」
「なんです? 王様」
 小首をかしげるキーラに王様は意地悪そうな顔を浮かべた。
「さあ? なんでしょう。カバーを取って確かめればどうでしょうか?」
 キーラは言われた通りカバーをとった。そして皿の上の物を目にする。
「こ、これは……」
 キーラは言葉を失った。
「どうなされた? キーラ殿?」
 驚くキーラの顔を見て、してやったり顔の王様がわざとらしく尋ねた。
 皿の上にあったのは甘そうなクリームがたっぷりデコレーションされたケーキだった。
「い、いえ、その……」
 キーラの顔が青くなる。
「遠慮なさらずにどうぞ、どうぞ」
 王様はジュエール姫を使ってキーラの苦手な物を聞き出していた。それがこの甘くておいしそうなケーキだったのだ。
 それを見ていた王様は小声で家臣に耳打ちした。
「見てみろ。魔女のあの顔。やはり苦手なものを出されるのは嫌なものらしい」
「左様ですな」
「イッヒヒヒ……」
「クッククク……」
 二人は顔を見合わせて笑った。
 キーラといえば嫌そうな化おをしながらケーキにフォークをさした。
「よりによってケーキだなんて……まったく」
 そんな事をぶつぶつ言いながら器用に切り分けながら口に頬張る。
「あー、ヤダヤダ」
 文句を言いながら、あっという間に半分を食べ尽くした。
「おまけに大きなイチゴ。もう、最悪」
 そう言って赤いイチゴにフォークを刺した。
 その様子を見ていた王様と家臣は眉をしかめる。
「のう、キーラ殿はケーキが苦手ではなかったのか?」
「そうお聞きしました。地獄に棲む鬼よりもケーキが恐ろしいのだと」
「だが、その割にはもうほとんど食べ切ってるようだが?」
「言われてみればそうですな」
 首をかしげる二人をよそにキーラは二皿めに手を出していた。
「うわーっ、最悪だわ。ケーキだなんて、むぐもぐ」
 隣に座るジュエール姫もそのたべっぷりに呆気にとられる。
「キーラ様、すごい」
「そう?」
 そう答えながらキーラは二皿めを食べ終えていた。
「ああ、恐ろしかった」
 満足げな顔をするキーラ。
 何かおかしいと思った王様は思わず尋ねた。
「キーラ殿。つかぬことをお聞きしたいのだが」
「なんでしょう?」
 キーラは口をナプキンで拭きながら言った。
「そなた、ケーキは、地獄に棲む鬼よりも恐ろしいのではないのですかな?」
「はい」
「それにしては、今の食べっぷりは何とも……」
「ああ、森に住む魔女たるものケーキごときに怯んではならないと勇気を絞りました」
「え?」
「ケーキへの恐怖は何とか克服したのですが、今は別のものが恐ろしくなってしまいました」
「ケーキより恐ろしものがあると?」
「はい。思い浮かべるのも恐ろしいです」
「差し支えなければ森の魔女殿が恐怖する物をお教え願えぬか?」
「王様の頼みとあれば」
「で、魔女殿の恐れるものとは?」
「次は、美味しい"紅茶"が恐ろしいです」


The cake is disliked」おわり



 <あとがき>
 オチわかっていただけたでしょうか?
 終盤気がついた方もいらっしゃったと思いますが古典落語「饅頭、怖い」のアレンジですよ。
 こんなんでごめんなさい!!
 ストーリーの作りの勉強にと今、落語を研究してます。その流れでっていうのと正月ボケでついやっちまいました。
 新年早々大目にみてください。
 あ。明けましておめでとうございます♪

(↓このお話のキャラたちの登場するショートはこちら)


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