2、モビルスーツ部隊

2稿目

 三機のミデア輸送機が降下していった。
 その姿は通常のミデア型と少し違っていた。コンテナ式の機体は一体型にされ、幾つかに砲身が備え付けられて
いた。コクピットに近い部分にはドクロとナイフを模ったマークが描かれていた。それこそがこの武装ミデアが特別な部
隊である事の証だった。
 ホバーのエアが簡易着陸場所の砂塵を舞い上げていく。
 輸送機の到着に気付きテントの中から司令官のヘンダー・レイス大佐が出てきた。エアのが収まらないうちにミデ
アのハッチが開かれるとミデア輸送機のクルーたちが荷物を降ろす作業に取り掛かっていった。
 搬出されていくのは白い人型の戦闘兵器。ガンダムと呼ばれるモビルスーツに良く似た機体だった。
「到着しましたね。しかしよくこんなのをよこしたもんだ」
 横に来た下士官がそう言った。
「要望以上の戦力なのはいいが.……気に入らんな」
 そう呟くレイス大佐の視界に黒いリムジンが入る。
「あいつの差し金かもな」
「え?」
 下士官が大佐の視線の先を見るとリムジンから大柄の軍服を着た男が降りるところだった。男は車から降りるとボ
ディーガードに囲まれたまま大佐たちのテントに歩いてきた。
「やあ、大佐。ごきげんいかがかな?」
「まあまあ、です。あなたは? アイルード将軍」
 大佐は愛想笑いもみせずにそう言った。
「なんだね。ご機嫌が悪そうだな。まあ、聞いたところによると戦車隊を失ったそうじゃないか。なら機嫌の悪いのも分
かるというものだ」
「用件はなんです? 将軍」
「まあ、そういう顔をするな。せっかく君に気に入ってもらえると思ったのにな」
 アイルードは持っていたステッキで降ろされていくモビルスーツを指した。
「あの"ガンダム"もどきはあなたが?」
「ジャブロー(連邦軍の総司令部)には友人も多い。ちょっと話をしたら"あれ"をまわしてくれたよ」
 そう言ってアイルードはにたりと笑った。その見透かした様な笑いをレイスは好きになれなかった。たとえ、連邦軍
に協力する有力者でもだ。
「これも私の国をジオンから取り戻す為だ。その為に連邦に加盟したしな」
 アイルードはステッキをくるいとまわす。
「どうだ? 似合うかね? この連邦の軍服は。ヨーロッパの仕立て屋に作らせたが良い作りだ」
「ええ。とてもお似合いですよ、将軍」
「ありがとう、大佐。では私は戻るとしよう。あなた方、プロの邪魔にならないようにな」
 アイルードはにやりと笑うとリムジンに向った。
 それを見送る二人の連邦軍将校はなんとも納得のいかない気分になっていた。
「なんであんな奴を司令部は」
「"あんな奴"も元この国の支配者だ。ジオンに追い出されたとはいえ、未だにこの土地には大きな影響力を持ってい
る。それに金もあるしな」
「噂、知ってますか? あの男がここを"独裁"していたときに何万の市民が殺され……虐殺されたか。戦争前は連邦
の介入を拒んでいたくせに」
「今、では我々の協力者だ」
「もし、我軍がここを奪還したら……」
「ここは再び奴のものさ」
「何か、納得いきません」
「考えを変えろ、大尉。我々はジオンを地球から追い出そうとしたいだけだ」
 モビルスーツが降ろされていく中で、そのパイロットたちもミデア輸送機から降りてきた。同じように刈り上げられた
短髪と屈強な体格は皆、兄弟ではないかと思ってしまっ程だった。
 先頭を歩く隊長らしき男が大佐の視線に気付き、敬礼をしてきた。
 その目はとても強く、任務は必ずやり遂げるであろう信念らしきものが感じられた。この戦争の初戦において死んで
しまった兵士たちの中に多くいた者の目だ。経験と断固とした意志を持った者の。
「アイルードの差し金だとしても、これは悪くない」
 レイス大佐はパイロットたちを見て幾分、機嫌が良くなっていた。
 パイロットたちの隊長が大佐たちのテントに向ってくる。入り口に立つ大佐たちの前に来ると直立不動になり敬礼し
た。レイス大佐たちも敬礼を返す。
「第7遊撃MS部隊のデニス・カスター少佐以下8名、只今到着いたしました」
 カスター少佐はそう大佐に告げた。
「ようこそ、アフリカ戦線へ。少佐」
「失礼ですが基地内が騒がしいようですが?」
「ああ、小規模の攻撃作戦を実施するところだ」
「では我々も」
「君らは到着したばかりだろ。それに今回はMSの出動の必要はない作戦だ」
「MSはいかなる戦闘状況にも対応しえます」
「君もモビルスーツ万能主義か? まあいい。MLRS(ロケット攻撃兵器)によるジオンの鉱山基地の攻撃を行なう予
定だ。反撃はないと思うが守備をしてみるか」
「お任せください」
 カスターは再び敬礼した。



 サッカーボールが高く上がった。
 それを追いかけて子供たちが走っていく。
 落下したサッカーボールを取ったのは子供ではなくジオン兵だった。
「おらっ! 俺から取ってみろってんだ!」
 ジオン兵はそう言うとドリブルして反対側のゴールに向っていった。
「ショーン! ずるいよ! ハンドだ!」
「ずるくねえ! 神の手だ!」
 子供たちの抗議を無視してショーンはボールをゴールに向ってシュートした。ボールはキーパーのガードしようとした
足をすり抜けネットのないゴールに入っていった。
「はっはは! どうだ!」
 
 その様子を日陰で本を読みながら観戦していたアキ・サイトウは首を横に振る。
「大人気ないわ」
 横でちょこんと座っている村の女の子も同意して頷く。
 その後ろではリーパーが昼寝をしている。
 アキは人影に気付き顔を向けた。上官のハンス・レイリッヒ少尉だ。アキは椅子から立ち上がって敬礼しようとした
がレイリッヒは敬礼を返したがそのままでいいと付け加えた。
 寝ていたリーパーは物音に気付きアイマスクがわりにしていた帽子を上げる。
「ショーンを呼んでくれないか?」
「了解」
 リーパーは起き上がると指笛を吹く。その甲高い音に気付いてショーンが顔を向ける。
 レイリッヒ少尉の姿を見つけると名残惜しげにゲームから抜けた。
「ねえ、マリア。ちょっと向こうへ行ってもらえないかな」
 アキはそばに座っていた少女の頭を撫でるとそう言った。
「うん、いいよ」
 少女はテントから出て行った。
 それと入れ替わるようにショーンがテントにやってきた。
「少尉」
「そのままで聞いてくれ」
 レイリッヒは少し間を置いて話し始めた。
「鉱山からの撤収が決まった。時期は未定だが各方面軍の集結ポイントが確定次第、命令が下ることだろう」
 ショーンたちの顔が強ばる。
「ちょっとまってくださいよ、少尉。ここを見捨てるんですか?」
 ショーンが声をきつくして言った。
「戦略的撤退だ。見捨てるとか見捨てないとかの問題じゃない」
「俺達がここを去ったら、"あの連中"が待ってましたとばかりに乗り込んできますぜ」
 リーパーが付け加える。
「そうかもしれんがジオンの戦略には関係ない事だ」
 レイリッヒは視線を外した。
「ここの村の連中はどうなるんすか!」
「情報では"奴ら"は連邦に組み込まれるらしい。だとしたらかつての様な無茶はできんだろう」
「楽観的だぜ」
「だが可能性としては大いにあるよ」
「それでも楽観的ですよ」
 ショーンはサッカーに興じる子供たちを見つめた。
「俺は金やダイヤモンドなんかより、あいつらを守ってやりたいんだ」
 その時だ! 
 突如、警報が鳴り響いた!
「攻撃だ! くそ!」
 中央の防衛システムが作動していく。
 オペレーターたちが手際よく操作を進めていく。
「包囲105より多数のロケットの接近を確認!」
「防衛システム作動します! レーザー急速充電中!」
「着弾まで約、14秒」
 多角形の探知カメラが接近するロケットを捉えた。同時に迎撃レーザーが発射される。コンマ数秒で接近するロケッ
トに到達した。空中に幾つもの爆発が起こる。
「1基逃した!」
 迎撃網を逃れたロケットが一発、鉱山の一部に着弾した。山肌に爆破が起きた。
「被害は!」
 コマンドルームの当直士官が声を荒げて言った。
「Aブロックの一部に着弾! 今、確認中です」
「いそげよ」
 当面の危機を脱したと判断した士官は指揮椅子に座りなおす。
「連邦め。調子にのりおって」
 基地の司令官であるダッソー中佐がコマンドルームに入って来た。
「被害はどうか?」
「報告は!」
 上官の問いに当直士官が声を荒げて部下に言う。
「被害なし! 施設に被害はありません!」
 報告を聞いたダッソー中佐は当直士官の空けた席に座る。
「ロケット攻撃が始まったという事は連邦がだいぶ迫ってきたということだな」
「はっ、残念ですが」
「気に入らんな」
「攻撃機を差し向けますか?」
「手持ちのドップの数では大した戦果は期待できん。攻撃はMS隊にやらせよう。足の速い隊は?」
「ゲランのチームはドムで構成されていて展開は速いです。後はレイリッヒのチームが期待できますが」
「では、その2チームを使う。準備させろ、中尉」



「弾薬装填確認どうか!」
 格納庫では整備兵たちがが慌しく動き回っていた。
 命令を受けたMS部隊が出撃準備を始めたからだ。
 偶然に待機中だったデイビッド・グラン少尉のMS部隊が早々とゲートに集結していた。
 ホバー機能を持つモビルスーツMS-09ドムで構成された彼の部隊はゲートまで来るとその得意のホバーリフトを作
動させてゲートから出撃していった。
 レイリッヒ隊の面々も、すれ違うようには格納庫に集まり、それぞれ自分の愛機に乗り込んでいった。

「アキさん、ヘルメット拭いときました」
 そう言って整備兵がアキにヘルメットを渡した。
「ありがとう」
 アキはそれを受け取るとにこりと微笑んだ。
 隣の整備やぐらではショーンがMS-09ドムに乗り込んでいた。
「おい、俺のメットは?」
 整備兵は面倒臭そうに指を指す。
「そこにあるだろ」
 シートの下に置かれたメットを屈んで取る。
「なんか、差別してない?」
「してないよ」
 整備兵は顔も向けずにそっけなく答える。
「いや、してるだろ」
 
 向かいでは既にリーパーの旧型ザクが動き始めていた。
『先にいくぜ、ショーン』
 リーパーから通信が入る。続いて隊長機のグフが動きだした。
「ちっ、早いな」
 隣にいた同型機のドムが前に歩き出すのが見えた。アキの機体だ。
『お先に』
 アキから通信が入った。
「あっ! アキ、てめえ」
 ショーンはコクピットのハッチを急いで閉じるとシステムを起動させる。モニターが外の様子を映しだすとコクピットの
中が明るくなった。
「アルファ2でるぜ!」
 ショーンはドムのホバーシステムを作動させた。
「ば、ばか! ショーン、やめろ!」
 強烈なホバーの風が格納庫内に吹き上がり粉塵が中に充満していった。
 ショーンのドムが飛び出した。
「あいつ、格納庫の中でホバーリングしやがった」
 リーパーが呆れ顔で言う。
 出入り口から粉塵が舞い上がっているのが見える。中から大勢の整備兵たちが咳き込みながら出てきた。
「ショーン! てめえ! 戻ってきたら殺してやる!」
 整備兵たちから罵声が上がっていたがショーンにまでは聞こえない。
 ショーンのドムはレイリッヒの機体を追い抜くとスライディングターンをかけて止まった。
『ショーン、おまえ、またやったな』
「好きなんすよ、これ」
『後で文句を言われる俺の身にもなってみろ』
「へへ、すいません。少尉」
 悪気の無さそうなショーンの口調にレイリッヒは諦め気味に首を振った。
 軽い騒動を起こし、レイリッヒ隊の4機のモビルスーツは基地から出撃していく。

 

 そのころ、数十キロ離れた上空では偵察機ルッグンが高度を高く取りながらロケット弾の発射地点を目指して飛行
していた。
「いたぞ」
 目のいいパイロットがサバンナに何台かのトラックの様な一団を見つけた。
 後部座席のパイロットも特殊カメラで熱源を確認する。
「こちら、ベビーフェイス。敵のロケット砲部隊を発見」
 音声にノイズは、ほとんど入らなかった。どうやら連邦軍の部隊は油断しているのか通信に影響が出るミノフスキー
粒子の散布もほとんどしていなようだ。報告の通信はスムーズに基地に送られていた。
 しかし、偵察機は連邦軍の部隊に把握されていた。地上からミサイルが発射される。
「対空ミサイルだ! やばい!」
 ルッグンは急旋回してミサイルを回避した。
 目的を達したパイロットは射程内から離脱しようと機体を上昇させると、そのまま基地に方向を変えていた。


 ―連邦軍MRLS隊―
「弾は撃ちつくした。長居は無用だ。引揚げるぞ」
 ロケット砲部隊の指揮官は部下に命令した。
 固定されていた車両が移動できるように変形していく。
 撤収準備を進める部隊の周りを連邦軍のモビルスーツRGM−79ジムが囲む様にビームガンを構えて立ってい
た。
 警戒中のRGM-79のパイロットはモニターカメラを一瞬、ロケット砲車両に向けた。
 その時だった!
 ロケット弾の一撃がジムの頭部を吹き飛ばす! チタン合金とプラスチックの破片が周囲に飛び散っていく。
 反動で大きく傾くジムは片膝をついた。
「敵襲! 敵襲だ!」
 仲間のジムがビームスプレーガンを構えて敵の姿を探す。
 しかし敵の動きは早く、さらには死角に回り込んでくるので補足ができない。モニターに一瞬映るその姿にパイロッ
トが舌打ちをした。
「スカート付きだ。くそっ!」
 戸惑うRGM-79ジムの背中を150oバズーカーのロケット弾が直撃した! 
 崩れ落ちるジムの背後にデザートカラーのMS-09ドムを大地を滑るように現れた。
「この連邦のザコどもは俺達グラン隊がいただく!」
 4機のMS-09ドムはロケット砲部隊とジムを逃がさない様に包囲していった。





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