キーラが城に来て数日が過ぎた。


 ジュエール姫はキーラに引っつきぱなしだった。本来、ジュエールのボディガードはキーラのはずだったが今では逆
のような感じになっていた。はたから見ると本当の姉妹のような雰囲気だ。
「まあ、従順だからガードがしやすいけど……」
 多少、うっとうしさも感じる事もあったがキーラも次第にジュエールの事が可愛く思え始めていた。
 
 ある日の夜――

 その夜、ジュエールは真剣な顔でキーラに問いかけた。
「ねえ、キーラ姉さま。お姉さまは恋をした事はありますか?」
「恋? ああ、そんなのいつもよ……この前も"運命の人だ!"って思える人に市場で出会ってね」
「本当ですか?」
 ジュエールは興味津々で身を乗り出した。
「でも、邪魔が入って……いつも報われないのよねぇ」
 キーラはため息をついた。
「お姉さまもですか?」
「え? あんたも?」
「ええ、お父様が彼と会うのも許してくれないのです」
「まあ、ひどい!」
「……もうずっと彼と会ってません。そしたらこの"ライカン騒ぎ"でしょ? ますます会えなくなって……」
 ジュエールは哀しそうに目を伏せた。
「そっかぁ……」
 すっかりジュエールに同情したキーラは何とかしてやりたいと思う。
「心配しないでよ! ジュエール」
 キーラはジュエールの肩をポンと叩いた。
「ライカンの件は私が早く片付けるから、そしたら一緒に彼のとこに行こ?」
「ほんとですか?」
「うん。王様には私も一緒に頼んであげるから」
「ありがとう! お姉さま! ……でも、なぜ一緒に…?」
「え? そ、それは…その……」
 ジュエールの彼の友だちにでも紹介してもらえる?
 と……喉から出かかったキーラだったがぐっと堪えるのであった。

 その時、鐘の音が鳴り響いた!
「なんでしょう? こんな鐘の音は聞いた事がないです」
「ふふふ……かかったみたいね」
 キーラはニヤリと微笑んだ。
「実はライカン用の罠を仕掛けておいたのよ。これは獲物が罠に掛かった合図」
 キーラはすっくと立ち上がった。
「さあ、ちょっと片付けてくるわ」






 城に忍び込んだライカンは匂いをたどってある部屋に辿り着いた。中に入ると長椅子にジュエールが座っていた。ラ
イカンは静かにジュエールに近づいていく。ジュエールは恐ろしいライカンが近寄ってくるというのに表情ひとつ変えず
に長椅子に座ったままだった。 ライカンがジュエールの手を伸ばしたときだった。その姿は霧のように消え去った。
 背後のドアが閉まり大きな鐘の音が鳴り響いた!

 罠だ!

 ライカンは部屋から逃げ出そうとしたが部屋のドアはどういうわけか消えていた。
「はっはははは! 掛かったわね? 子犬ちゃん!」
 どこからか声がした。ライカンは上を見上げた。天井は消え去り、夜空が見える。壁は城壁となり、その上には松明
を持った兵士達が立ち並んでいた。その中に一人、水色の髪の女が腕を組んで立っていた。見覚えのある女だ。
「ジュエールの匂いも姿も全ては私の作り出した幻影。見事に引っかかってくれたわね。ライカンスロープ!」
 兵士達がボウガンを構えた。これではいくらタフなライカンでもひとたまりも無いだろう。
「構えぃ!」
 兵士たちの隊長が手を上げた。
 悔しげに唸るライカン。
 その時、背後の隠し扉が開いた。
「あら?」
「だ、誰だ! せっかくの仕掛けを動かしたのは!」
 突然のアクシデントに隊長が怒鳴った!
 ライカンは素早く隠し扉に飛び込んだ。
「撃て! 撃て!」
 隊長は慌てて命令した。
 ボウガンから放たれた矢が地面に突き刺さった。
「追え! 追うんだ!」
 兵士達は城壁から降りてライカンを追った。


「もーっ! せっかく、仕込んだのにぃ!」
 城壁に一人残ったキーラはしゃがみこんでぼやいた。その時、視界に誰かが入った。ライカンの去った罠の跡に誰
かいる。ジュエールだった。しばらくその場にたたずんでいたジュエールは足元の何かを拾い上げた。
 何してるってんだろう?
 ジュエールは顔を上げた。慌てて身を隠すキーラ。ジュエールの見たのは夜空の月だった。満月の柔らかい光がジ
ュエールを美しく照らし出していた…・…。

「ジュ、ジュエール? なんで?」



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