その日の城内は殺気立っていた――
 城の門が閉められ城壁の中は簡易闘技場と化した。城壁の上は民衆にも開放され大勢の野次馬が集まってい
る。これに乗じて商売しようと物売りまで現れる騒ぎだ。

 まるでお祭りね

 部屋の窓から外を見たキーラはそう思った。
 誰かが部屋に入ってきた。
「キーラ様! お時間です!」
 王様配下の兵士がキーラを呼びに来たのだ。
「今行く」
 部屋を出たキーラを待ち構えていたのはジェエールだった。心配そうな顔でキーラを見つめる。
「何、ジュエール。ライカンがそんなに心配?」
「いえ! 心配なのはお姉さまです! ライカンは怪物。キーラお姉さまが奇妙な剣術を使うといっても女の身では無
茶ですよ!」
 キーラはジュエールの唇に指を当てた。その真剣な瞳になぜかドキリとするジュール。
「心配しないで、ジュエール。私は魔法使いよ」
「そうですけど……」
「とにかく私に任せて!」
 キーラは親指を立てた。



 盛り上がる簡易闘技場――
 展覧場に王様が姿を現した時に城内のボルテージは上がった。
「只今より、世を騒がした邪悪な獣に捌きを与える!」
 歓声が上がる。
 道化が柵のの上に飛び乗った。身軽な動きで飛び跳ねると手を大きく広げて集まった民衆に叫び始めた。
「地獄より這いだし美しきジュエール姫を狙い続けた獣! その悪行が裁かれるときがきた! お集まりの紳士淑女
諸君! いよいよ登場だ! 地獄の獣! 邪悪の化身! ラーぁぁイカン・スロープううう!」 
 太鼓が鳴り響くと数十人の兵士に槍を突きつけられた鎖に繋がれたライカンが現れた。
 その凶暴な姿を観てどよめきが起きる。

「続いてはその獣に制裁を加えるべく処刑人の登場だ! 蒼い衣をまとい、正義の為に立ち上がった戦士! 蒼い
魔法使い! キーぃぃぃラ・ズム・マジョルカぁぁぁ!」
 キーラが門から登場した。紙吹雪が舞った。歓声もさらにヒートアップしていく!
 目の前ではキーラを見つけたライカンが威嚇を始めた。キーラはその前に立つと上下両刃の剣を出した。
 敵意をむき出しにしたライカンはキーラに襲い掛かろうとした。鎖を持った兵士たちが引きづられていく。
「や、やばい……」
 焦り始める兵士たち。
「いいわ、始めちゃって」
 その合図でライカンをつないだ鎖が外された。鎖を持っていた兵士達は急いでそばから離れていった。
 ブーメラン型の刀を構えるキーラ。柄の部分が外れて二つの刀となった。
「あんたも苦労してるわね。でも今、楽にしてあげる」
 ライカンが牙をむき出しにして飛びかかった! その場を飛び上がるキーラは空中で回転するとライカンの背後に降
り立った。
「少し、痛いけどごめんね」
 キーラの刀が目にも止まらぬ速さでライカンの背中を切り裂いた。野次馬の民衆たちにどよめきが起こる。
 刀をひとつに戻すとキーラは構えを解き無防備に立ち上がった。
 様子を把握できずにいる城内が次第に騒ぎだしてきた。王様も戦意を見せないキーラにしびれを切らした。
「どうした! とどめは? とどめ」
 それつられて民衆からも「とどめ」コールが起きだした。中にはキーラに罵声を浴びせる者も現れた。
 城内を見渡したキーラは手に持った剣を高く突き上げた!
「黙れぇ!」
 その大声に群衆が静まり返った……。
「処刑はしない!」
 その言葉にざわめく城内。王様も思わず立ち上がった。
「キーラ殿! 死刑執行を申し出たのはそなた自らではないか。それができないとはどういうわけだ?」
 キーラはにやりと笑った。
「私はライカンを処刑すると言ったのです。ですが、今そこにいるのはライカンではございません」
 キーラは背中の毛皮を切り取られうずくまるライカンを指差した。
「そこにいるのは人間です!」
「そいつのどこが人間だ! 早く殺してしまえ」
 王様は次第に感情的になって怒鳴った。
 キーラはライカンに近づくと頭を掴んでひぱった。
 群衆がざわめき始めた。
 キーラが手に持っていたのは狼の毛皮だった。その下には長髪の若者がうずくまっていた。
「人間だぞ、おい……」
「なんだよ、ライカンじゃないのか?」
 上半身裸の若者は疲れきった顔を上げた。
 その顔を見たジュエールは魂が口から飛び出るほど驚いた。
「ブリリアン!」
 そこにいたのはジュエールの恋人だった。


   目次    



トップへ
戻る