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Dファクトリー

漆黒のファントム

2、入港

 人類が宇宙にその生活圏を求めて半世紀以上が過ぎていた。
 "星Wともいえる目の前の人工建造物はその巨大な姿を太陽光に照らされていた。円筒状の巨大衛星の内側には大量の土と植物が持ち込まれていて、そこでは、もはや地球上と変わらぬ生活が営まれていた。

 コロニーの外壁に黒い影が映る。
 宇宙巡洋艦はコロニーの進入路を求めて移動していた。サラミス級と呼ばれるその宇宙戦闘艦はその百メートルを超える船体を斜めに傾け旋回を開始していた。
「レーザーロックオン。エイプリル、誘導に従います」
「許可する」
 艦長は携帯食料のチューブを咥えると指揮椅子に備え付けてあった受話器をとった。
「ブリッジです。サイド5に到着しました」
 用件を伝えた艦長のライス中佐は軍帽を取ると止めていた髪を解いた。無重力状態の空中でブロンドの髪がまるで水の中に沈めたかのように広がった。
「これで、ようやく一息つけるわね」
 金髪を無造作にまとめた艦長は大きく伸びをした。
「あの艦長、まだ入港してませんが」
 副官が咳払いをして言う。
「任せる」
「え?」
「飽きちゃった。後はあなたがやってみせて」
「り、了解」
 そう言って微笑んだライス中佐は、ブリッジから出て行ってしまった。副官はため息をついて指揮席に向った。通信兵が笑いを洩らす。
「笑うな」
 副官は通信兵の頭を軽く小突くと艦長席に座った。




 地球連邦軍改造型巡洋艦エイプリルの展望室で一人のパイロットがコロニーの外壁を眺めていた。
 強化ガラスに手を押し付けながら外を見るその姿はまるで子供だ。
「おい! リトル。もうすぐ入港だぞ」
 その声に外を見つめていたパイロットは振り向いた。整備兵がドリンクパックのチューブを咥えながら展望室に入ってきた。軽くジャンプすると惰性で展望室の窓まで飛んだ。
「ん? 特にする事ないよ」
 ミナは見知った整備兵にそう言った。彼の身体は壁に垂直になったままで会話を続ける。
「でも休暇をもらえるって噂だぜ」
 ミナは顔を横に曲げて整備兵の向きに合わせた。
「ほんと? ナッシュ」
 顔を触れそうなくらいまで近づけるミナに整備兵のナッシュは少し焦る。
「う、噂だけどな」
 ミナとは、同じコロニーの居住区で育った幼馴染だ。ナッシュの方が二つほど年上だったが、お互い、宇宙軍に入ったのは知らなかった。同じ部隊に入ったのもまったくの偶然だった。
「でもきっと、すぐお達しがあるだろうさ」
「そっか"陸"にあがれるのかぁ」
 パイロットは再び窓の先のコロニーの目を向けた。"陸"とはコロニーの事を差す。宇宙船乗りのスラングだ。
 しかし先ほどまでの態度と変ってミナの表情が急に沈み込む。それに気がついたナッシュが声をかけた。
「なんだよ? うれしくないのかよ」
「ん? うれしいよ……でも」
「でも、なんだよ?」
「なんでもない」
「わかった。この作戦が不安なんだな。あのガンダムに乗る自信がないんだな」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「当たりだな。おまえって分かり易いんだよ」
「ナッシュにはわからないよ」
 ミナは顔を背けた。ナッシュはミナの頭を軽く叩いた。
「悪い。言い過ぎた。大丈夫、お前ならやれるさ」
「……うん」
 自信無さ気に返事をするミナの声は頼りなかった。
 その時、館内放送が流れる
『ミナ・ハンサカー准尉。至急ブリーフィングルームに出頭して下さい。ミナ・ハンサカー准尉。至急……』
「ごめん、ナッシュ。行かなくっちゃ」
 ミナは無重力状態の中、壁を蹴り上げると展望室の出入り口に飛んだ。
「ああ、がんばれよ」
「うん! ありがとう!」
 ミナは壁に備え付けられた移動用のスティックを掴むと進む方向にスイッチを入れた。浮いた身体は移動するスティックに引っぱられ廊下を進んでいく。
「がんばれか……何やってんだ、俺は」
 ナッシュはため息をついて幼馴染の後姿を見送った。



 巡洋艦エイプリルが宇宙艦ドッグに到着すると早々に慌ただしくなっていく。
 待ち構えていたシートに覆われた三機のモビルスーツが搬入され始めたのだ。
 狭い格納庫に収納せれモビルスーツを見上げるミナはシートが外されるのを見守っていた。整備員が数人がかりでシートを引っぱりだす。
 やがて白い機体がその姿を現した。
「これが……ガンダム」
 ミナたちが搭乗するはずの3機のRX-78-3改"ガンダム・エプシオン"は出航時の搬入ではなく作戦のベースとなるサイド5に届けられていた。
 巡洋艦エイプリルへの搭載が間に合わなかったのはテスト調整が遅れたという理由だったがガンダムならばと、妙な納得で製造メーカーであるアナハイム社に対して特にクレームはつけられなかった。
 並べられFガンダムに集まった整備チームが仕事を始めだした。その中に 幼馴染のナッシュを見つけたミナは手を振った。それに気付いたナッシュも手を振り返す。
「おい、ハンサカー」
 突然の大声に驚き振り返るとミナが編入された部隊の隊長が立っていた。
「デイモン大尉」
 ミナを推薦した人間だ。
 上官である大尉にミナは敬礼した。その後ろには同部隊のハーネットが退屈そうな顔で立っていた。ミナの顔を見ると軽く手を上げる。
「何してる?」
「何って……ガンダムの様子を見に」
「そいつは整備チームの仕事だ。俺たちが見守っていても役には立たんさ」
「そうかもしれませんけど」
「それより飯を食いにいくぞ」
「食堂ですか?」
「いや、コロニーへの上陸許可がでた。艦内食も飽きた。外の食い物も悪くないぞ」
「つまり24時間の休暇って事だよ」
 ハーネットが付け加えた。
「マジで? やった!」
「わかったら、早く行こうぜ、UPOFの結成記念だ。飲むぞ」
「UPOF?」
「特殊兵器対応作戦部隊(Specialweapon Purpose Operations Forces)の略だってよ」
 ハーネットがまた付け加える。
「な、長いですね」
「でも、なんか凄そうだろ?」
 隊名を気にいっている様な隊長のデイモンだったがミナは神妙な顔つきだ。
「だが、俺も少し長いと思う」
「やっぱり」
「で、新しい俺が別の名前を考えた」
 デイモンは、名前を言わずミナとハーネットの肩を掴むとエレベーターに向かう。
「その発表は店に言ってからだ」
 デイモンと一緒にいるのは、この数日間だが気さくな上官は、あるで何年の付き合いかの様に接してくる。
 そんな上官にミナには部隊の指揮官というより男兄弟の様な感覚を持ち始めていた。
「そんな、大尉。今、教えてくださいよ」
「だめだ」
 デイモンは、きっぱりとそう言った。



 サイド5周辺は人類初の宇宙艦隊戦があった宙域だ。
 今でもその時の残骸が宇宙に漂っている。
 宇宙戦艦に使われる鋼材やセラミックは残骸になった後も十分価値のあるもので、使える電子部品やパーツも再利用できるものだった。
 地球連邦政府は直接的には残骸の回収はしていない。回収は民間で行われ、サイド5の経済活性のひとつとして役立っていた。
 引き揚げした残骸はコロニー公社や資源開発企業が買い上げていた。
 終戦後のコロニー再建事業もあり需要は過多。多くのサルベージ業者が集まっていた。

 店の中は賑わっていた。
 仕事を終えたサルベージ船の乗組員たちが集まり、仕事のうさをはらしていた。
「にぎやかですね」
 店の中を見渡してミナが言った。
「いいね、俺の好みだ」
 デイモンが機嫌よさげに言う。
「少し、品が無くないっすか?」
 ハーネットはウンザリ顔だ。どうやら店の雰囲気が気に入らないらしい。
「もっと静かな方がいい」
 そう付け加えたハーネットの背中に誰かが当る。
「すまない」
 そう言って振り向くと、白に近いブロンドのショートヘアの若い女がハーネットを睨みつけていた。
「おい、謝ってるだろ」
「ふん、制服を着ているからって威張るなよ」
「なんだと?」
 二人の様子に気がついたミナが割って入る。
「よしなよ、チェス」
 ミナがハーネットの肩を引きよせ様としたがハーネットは視線を女から外さない。
「どうした? ザビーネ」
「こいつが因縁つけるんだよ」
 女の仲間が集まってきた。中でも一番身体の大きな男がハーネットとの間を遮るように女の前にった。
「騒ぎは起こすな」
「よしてよ、ヘルマン」
「黙れ」
 デイモンも騒ぎに気づきそばに来た。
「なあ、俺の連れ気分を悪くさせたんなら謝るよ」
 長身のデイモンが間に入ると相手のリーダーらしき男が前に出てきた。身体の大きさではデイモンに負けていない。
「いいさ、こっちも酒が入って気が大きくなってんだ。悪かった」
 騒ぎは終わった。双方、その場から離れお互いの席に向かった。
「もう! よしてよね、チェス」
「言ったろ、絡んできたのはあっちだよ」
「おい、俺たちは飯を食いにきたんだぞ」
「そうですが……」
「じゃあ、ここは全部、俺がおごってやる。それでどうだ?」
「やったー、デイモン大尉、最高!」
 ミナが喜んで手を叩く。

 電話機から揉め事を眺めていた男が受話器を電話機に掛ける。
「ふん、楽しそうなイベントはもう終わりかよ」
 男は咥えた煙草に火をつけると電話機から離れると席に向かった。
「パウル」
「おい、俺がいない間になにやってんだ? お前ら」
「ロウは?」
「あいつなら帰ったぜ」
「ねえ、パウル、聞いてよ、あっちの席にムカつく連中がいてさぁ」
「はっ! 連邦の制服連中か?」
「ザビーネ、少しは状況を考えろ。ノーマルでは連邦の連中とはできるだけ接触を持ちたくない」
「ヘルマンは慎重過ぎよ」
「お前は迂闊だ」
 ザビーネは中指をヘルマンに向ける。
「ありゃ、よそ者だな」
「何?」
「なんで分かるの? パウル」 
「ここらの連邦ならここに来ないだろ」
「確かにそうだな」
「だったら、どうなんだってのよ」
「あの徽章を見たか? ありゃ、モビルスーツのパイロットだ」
「ふーん、あの男もそうなのかい」
「それにあの女もな」
「パウルは、私だけ見てくれればいいのよ」
「かわいいぜ、ザビーネ」
「そういえば、軍の施設に動きがあったな。識別は巡洋艦だが」
「数日前にも気になる物資が運び込まれたが……関連か?」
「かもな」
「コード・レッドだな」
「おいおい、まだコードレッドになんぞなっちゃいねえぜ、へルマン。少なくとも3機のモビルスーツ搬入された可能性があるが、だったらどうだってんだ?」
 パウルはザビーネの飲んできたグラスを奪い取るをそれを飲み干した。
「俺たち"ヴェアヴォルフ部隊"に敵は無え。そうだろ?」



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