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Dファクトリー

漆黒のファントム


4、スターダスト
二稿目

 破損した民間船の様子に動きはなかった。
 ミナの呼びかけの通信にも反応はなかった。
 ミナはガンダムを船に近づけるとゆっくりと船体を移動いた。そうしながらカメラで船体の様子を慎重に追った。
「あっ……」
 船内に動くものを見つけたミナは思わず声を上げる。
 カメラをズームアップさせるとノーマルスーツが見えた。
「生きてる」
 ミナは備え付けのスラスターバッグを背負う。
「こちら、エプシオン3。船内に生存者を発見。今から救助に向かう」
『エプシオン3、少し待て。おい、エプシオン3……』
 そう返信が入ってきた時はミナは既にコクピットを開けて宇宙空間に飛び出していた。
 腰ベルトに付いた操作スティックでクラスターをコントロールして障害物をかわす。人間大の破片を押しのけて船内に入ると中は思ったより被害はないようだった。
 船内電話を見つけるとヘルメットに受話器をつけてみた。ノーマルスーツは外部の振動を変換して音声を拾えるが聞こえてくるのは雑音だけだ。
「誰かいますか」
 それでもミナは呼びかけてみた。
「救助にきました。誰かいますか?」
 雑音に耳を澄ますと何かが聞き取れた。
「私は連邦軍准尉のミナ・ハンサカーです。そちらは?」
 
『……だ。今、操舵室……』
 
 微かな言葉にミナは操舵室に向かった。多分、船体のタイプからいうと操舵室は艦首に違いない。ミナはスラスターを噴射させて通路を進んだ。操舵室らしき箇所に出ると船外が見えた。おそらく追突した部分に違いない。ここで開いた穴が船内の気圧を急激に押し下げたのだろう。同時に酸素も宇宙空間に噴出してしまった筈だ。その急激な出来事が船を航行不能の陥らせたらしい。
 ノーマルスーツなしの死体が漂っているのが見えた。思わずミナは目を背ける。死体がゆっくりとミナの横を通り過ぎた後、再び前を向いた。その時、イスに誰かがいるのに気がついた。
 ミナは駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
 ミナな計器類にうつ伏せている乗組員を助け起こした。
 ヘルメット越しの男の表情は虚ろだった。ミナを見るとまるで夢遊病者の様に手を伸ばす。
「しっかり! 助けに来ました」
 男の様子からすると酸素の供給が十分ではないのかもしれない。もしかしたらノーマルスーツが損傷している可能性もある。どちらにしろ早く安全な場所に連れて言った方いい。ミナは男を抱きかかえた。重力のある場所ならミナの小柄な体でこの男を抱き起こすのは大仕事だったが無重力状態では大した作業ではない。
 ミナは外が見える破損個所に目をやった。
 敗れた内壁から男を宇宙空間に押しだした後、自分も船外に出た。通ってきた壊れた船内を戻るより無人のガンダムに辿り着くにはよほど早い。宇宙空間に出た後は、男の腕を掴んでスラスターを噴射させた。なんとかガンダムのところまでくるとコクピットに男を押しこんだ。 男はうっすらと目を開ける。
「……ここは?」
 コクピットに乗り込んだミナはシートに潜り込むように座るとキャノピーを閉じる。
「連邦軍のモビルスーツの中です。狭いけど我慢してください」
 ミナは待機状態だったガンダムの起動再開させた。コクピットの中の全方位スクリーンが周囲の宇宙空間を映し出す。
 操縦桿に手を伸ばした時、救助した男の手がミナの手をつかんだ。
「今、治療のできるところに連れて行きます」
 その時、男は何かを呟いているのが見えた。
「なんです?」
 ミナは聞きとろうとヘルメットを相手のヘルメットに当てた。
 振動を利用した装置が音声に変換する。
「何が起きた……?」
「私のモビルスーツがあなた方の船と接触した様です」
「他の人は?」
「操舵室にいたもう一人の方は残念ですが亡くなっていました」
「ぼくも……死んだのか?」
 男は混乱しているようだった。
「いや、あなたは助かりますよ。私が助けます。絶対に」
 ガンダムのバーニヤ噴射速度が上がる。
「死んでいない?」
「はい」
「なら、目の前に天使がいるのは何故……?」
 そう言って男は意識を失った。
「天使?」
 その言葉にミナは顔を少し赤らめた。
 
 しばらくすると全方位スクリーンに巡洋艦エイプリルの船影が見えてきた。
 ガンダム・エプシオンはエイプリルの狭い格納庫に着艦していった。




「乗組員6名の内、生存者は1名だ」
 リケンベ中佐は報告書をテーブルの上に放り投げた。
「船はスペース・クリーナー社の所属のゴールドフィッシュ号。デブリの回収作業中だった」
 目の前ではミナが神妙な顔つきで立っていた。
「自分は責任を負う覚悟です」
 リケンベは首を振った。
「ミナ・ハンサカー准尉、これは突発的戦闘によるアクシデントだ。君の機体の記録を検証したが衝突を避けるのは非常に難しい状況だった。よってこの件は不問に処す」
「でも……」
「民間人4名の死亡は残念だが戦闘は演習指定宙域で起こったことで、しかも彼らは作業申請宙域から少し外れていた。本来ならいるべきではなかった宙域で操業していたわけだ。彼らが欲をかいた代償は大きかったのだ」
 リケンベはイスに座ると背もたれに寄りかかった。
「現在遂行中の作戦は非常に重要だ。君の様な優秀なパイロットは必要不可欠だ。事故は残念だが"亡霊"のデータも取れた。以降も任務に集中しろ。わかったか?」
「はい」
「では、以上だ。下がってよし」
 ミナは敬礼すると部屋から出た。外ではナッシュが待っていた。
「どうだった?」
「この件は不問だって」
「そうか、よかったじゃないか」
「よくないよ。4人も死んだんだよ?」
「事故だ。演習宙域に紛れ込んだ連中にも非はあるさ。燃えてる火に手を突っ込む奴と離れてる奴とどっちが利口だと思う? そうだろ?」
「私がもっと機体を使いこなしていれば」
「あれ以上何ができたって。相手はあの"ファントム"だぜ。それに被弾したら死んでたのはお前かもしれないだろ」
「うん……」
「ミナ、本来なら階級の上のお前にタメ口をきくのもよくないんだがこの際、関係ない。友達として言ってやる。お前は悪くない」
「ありがとう。でも……」
 ミナはナッシュを振り切る様に歩いて行った。
「そんな風に割り切れない」


 ミナの足は自然と医療室に向いていた。
 そこには唯一の生存者、ミナの救助した乗員がいる。
 彼の意識は現実と夢想の境を彷徨っていた。
 暗い宇宙を漂う自分。その先には巨大な黒い人影が待ち構えていた。
 彼はそれに触れたくはなかったが、同時に懐かしくも感じる。
 そのうちに引き込まれる様に黒い影に近づいていく。彼は必死に逃れようと、もがいた。その時、目の前に白い光が見える。
 彼は直感的に光が自分を救えるものに思えた。宙に浮かぶ自分は方向を変えて光を目指した。
 その光がやがて人の形になる。黒い影から逃れ白い人型の光に近づいた時、彼は安堵した。が、白い人型の光が彼に向けたのはビームライフルだった。それに気がついた時、ビームライフルの銃口から閃光が発せられた!
「しっかりしてください!」
 彼の目の前にいるのは覚えのない人間だった。心配そうな顔つきでこちらを見つめている。
「大丈夫ですか? まだ寝ていた方がいいですから」
 そう言うと彼女は手を肩置くと寝る様に促した。彼はそれに従い、ベッドの上に横たわった。
「誰だ?」
 彼は、そう尋ねた。
「ミナ・ハンサカーです。ここは地球連邦軍巡洋艦エイプリルの艦内医務室です」
 女はそう言った。碧がかった髪がなぜか印象的だった。
「あなたの乗っていた船が事故を起こしたのです」
 乗っていた船? 事故?
 彼はミナ・ハンサカーと名乗る女の言葉に混乱していた。
「僕がいつ船に乗ったって言うんだ……」
「ああ……きっと事故で記憶が混乱しているんですよ。名前は言えますか?」
 名前? 名前……僕の名前は……
 彼は自分の名前を言うのに何故だか戸惑った。
「ロウだ」
 本当にそれが僕の名前なのか?
「僕の名前はロウ・モリガン」
 ロウは、違和感を感じながらも、そう名乗った。



 少破した黒いモビルスーツが輸送艦のハッチから侵入した。
 着艦したモビルスーツは指定位置に停止できずに物資の一部を弾き飛ばした。
「おい! ザビーネ! もう少しまともに止まれないのか!」
 物資を避けた誘導員が文句を言う。
 黒いモビルスーツのキャノピーが開き、中からパイロットが出てきた。機体を蹴るとエアルームに向かって飛んだ。
 中には大柄な男が待ち構えていた。
「いい様だな。ザビーネ」
 ヘルメットをとると白金の様な髪が宙に舞った。髪の隙間から黒いアイパッチが見えた。
「3対1だ」
「わかって仕掛けたんじゃないか?」
「そうだけど……」
「自信と無謀は違う事を覚えておくことだ。でなければ代償が報われない」
「どういうこと?」
「お前を逃がすためにパウルたちの船が犠牲になった」
「なんでだよ! おい!」
 ヘルマンはそれ以上答えず、動揺するザビーネを残してエアルームから出て行った。


 モビルスーツの回収を終えた輸送船が再び動き出す。
 操舵士は漂うデブリを上手くかわしながら移動していった。
「シャウッテンはどうだ?」
 船長は入ってきたヘルマンに聞いた。
「機体は大した損傷ではないがビットを半分以上失っています」
 顔の傷は1年戦争での名残だ。当時、ザンジバル級巡洋艦を指揮していた指揮官も今では輸送船の船長だ。
 といっても各箇所には武装を隠し、戦闘用のモビルスーツも搭載した偽装輸送艦である。
 元々、ムサイ級巡洋艦は輸送艦の図面を軍事用に転用したものだった。こういった改造はジオンの得意な技術ともいえた。
「失態だな。大佐がお怒りだぞ。お前がザビーネの手綱をしっかり締めてくれんと。」
 船の船長を任されているハルダーは、厳しい顔つきでヘルマンに言った。
「よく言い聞かせます」
「パウルたちは?」
「消息不明です」
「シャウッテンの損傷よりそっちの方痛手だ」
「パウルは死んではいません」
「分かるのか?」
「もし死んでいればザビーネに何かの反応がある筈です」
「そういうものなのか?」
「詳しい事は分かりませんが、ドクター・ライヘナーはそう言ってましたよ」
「パウルを失ったら"ガイスト"はただのモビルスーツでしかないんだがな」
「私が救出します」
「駐留している連邦軍の戦力はばかにできんぞ」
「ザビーネとは違いますよ」

 
 *  *  *  *  *


 巡洋艦エイプリルは拠点としているコロニーに船首を向けていた。
 ミナの接触した小型船から救助した人員は艦内の医務室で治療されていた。
「アバラ骨が何本かヒビが入っているが内臓器官は無事だ。肝心の脳に損傷は無い様だが少し気になる部分があるね」
 船医のキャラハンはカルテを見ながらそう言った。
「内出血かもしれないがここの設備では限界があるんでね」
 ベッドの上のモリガンは特に表情も変えずに黙ってそれを聞いていた。船医の背後に立っていたミナは心配げな表情でカルテを覗きこんだ。ただし書かれているのは専門用語ばかりで理解はできなかったが。
「先生。彼は大丈夫なんでしょうか?」
「心配ないだろうね。ただしコロニーに着いたら専門の施設での検査を勧めるね」
 モリガンの表情はそれでも変わらなかったがミナの方は顔をほころばしていた。
「よかったです! 本当に」
 少し涙ぐんでいるミナを不思議そうにモリガンは見つめた。
「私は艦長に話があるのでここを離れるがハンサカー准尉はどうするんだね?」
「私はもう少しここに」
「そうか。では看病よろしく頼むよ。エースパイロット君」
 そう言ってキャラハンは片目を瞑って見せた。
「はい!」
 キャラハンは船医だが軍所属の人間であるので少尉の階級もあった。ミナは敬礼をして上官を送り出す。
 中に残った二人は顔を見合す。先に口を開いたのはミナの方だった。
「よかったです。最悪な事にならなくって……あっ、アバラ骨は残念だけど」
「あの……」
 モリガンがボソっと言う。
「以前会った事が? 」
「いえ、ないと思います。きっと事故のショックで記憶が混乱しているんです。実は私も経験あるし」
「じゃあ、なぜそんなに心配しているんでしょうか?」
「え?」
「僕とは初めて会うのに」
「いえ……あの……事故の原因は私だし」
「何があったんですか?」
「覚えてないの?」
「はい」
 モリガンは頭を押さえると俯いた。
「よく思い出せないんです。何故ここにいるのかも」
「え?」
 ミナは唖然とした。



 その頃、船医のキャラハンは艦長室で艦長のライス中佐に報告をしていた。
「事故の怪我がその程度に済んでよかったわね。他の乗組員は命を落としたのを考えれば彼はツイてる」
「それがそうとも言えないんですがね」
「何かあったの?」
「脳をスキャンした結果、腫瘍を見つけましてね」
 それを聞いたライスは眉をひそめる。
「彼が既に知っているのかどうかは知りませんがここで告知するあれでね。一応、専門医の検査は勧めましたが」
「そう……」
 ライスは持っていたペンを指で回した。
「まあ、それでいいでしょう。報告御苦労さま」
「はい……ああ、それからハンサカー准尉があの患者に付きっきりでして」
「ミナが?」
 ドクター・キャラハンは肩をすくめた。
「任務に支障がなけれ特に私から言う事もないわ。きっと責任を感じてるんでしょうね」
「そればっかりではないかも」
「何?」
「あの二人ね。なんか雰囲気が良くてね」
「船医さんは"そっちの方"の診断もするわけ?」
「いえ、独り言ですよ。独り言」
「じゃあ、私はあなたの独り言をたまたま聞いたのね」
「そうかも」
 ライスは楽しげに笑った。
「ふふふ……放っておきましょう。ああ、それからその独り言は他では慎むように」
「わかりました」
 キャラハンは敬礼すると艦長室から出て行った。
 イスに深く座り直したライスは溜息をつく。
「この艦もいろいろあるものね」



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