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15、Who Dares Wins 1章


3稿目

1章

 ミッシェルたちは医者を縛り付ける部屋から逃げ出していた。
 通路を進むと曲がり角に警備員の姿が見える。

「さがって!」

 ミッシェルは二人を自分の後ろにやるとサブマシンガンを構えた。

「待て! おい」

 警備員の呼びかけにミッシェルは銃弾で答える。白い壁を9ミリ弾丸が弾き飛ばす。

「あっちよ!」

 ジェシカは反対の方向へ走っていった。後に続くミッシェル。

 その時、無線機からデワンの声がした。

『何があった、ミッシー』

「デワン? プランAは失敗しちゃったよ」

『やれやれ、予想はしてたけどな』

「デ、デワン!」

 ミッシェルは弾丸のカードリッジを交換しながら怒鳴った。が、デワンは平然と話しを続ける。

『怒鳴るなって。それよりミックは?』

「確保した」

『じゃあ、さっさとプランBに移行しろ。今度はドジるなよ』

「もーっ! ドジらないってば!」

 弾丸を補充したミッシェルは接近しようとする警備員たちに射撃で威嚇した。後ろではジェシカとミックが身を隠してしたが不安げなジェシカをよそにミックは平然としたものだった。それでも幼い子供であるミックを気にしたジェシカは、声をかけて気遣ったのだが。

「ミック大丈夫だからね」

「うん、知ってる」

「え?」

「だってミッシェルがついてるもん」

 そう言ってのけるミックはにこりと笑った。それにつられてジェシカも笑ってしまう。銃撃戦の最中、小さな子供が安心しきる程、この子はミッシェルを信頼している。ジェシカも改めて自分達の盾になっているこの小柄なボディーガードの事を信じてみようと思ってた。

「ジェシカ! こっちはダメだ! プランBにする」

 ミッシェルがきつい口調で言ってきた。

「プランB? プランBって、そんなのあった?」

「廃液の処理管へ向う!」

「わ、わかったわ」

 ミッシェルが立ち塞がる様に威嚇射撃を再開すると同時にジェシカとミックは通路を走った。



 2章

 その頃、2機のブラックホークが施設の上空に接近していた。
 機内では"ザ・クラウン"の指揮官であるデラルテ・ボーンが携帯用パソコンの画面越しに施設に配置していた部下からの報告を受けていた。

『襲撃です。試験体を奪われました』

 部下がデラルテに言い難そうにそう告げた。

「あんたの予感どおりになったな」

 デラルテ・ボーンは、別の画面に映る雇い主の方を見た。

『こういう時の為にあなたたちがいるんでしょ? 仕事をしてみせて』

「まかせな」

 デラルテは立ち上がると部下たちに指示を出した。
 部下たちは一斉に装備の武器の作動確認を始める。

 施設の上空に来たブラックホークからロープが垂らされるとクラウンの隊員たちが次々と降下を始めた。
 地上に降り立ったクラウンの隊員たちはG36Eアサルトライフルを構えながら施設に向った。

「ブラボーは外部を固めて目標の脱出に備えろ。アルファは俺と一緒に来い」

 最後に地上に降り立ったデラルテはさっそく部下たちに指示を出した。



 その様子を数百メートル離れた草むらからスコープ越しに見つめる目があった。

「やばいぜ、デワン。クラウンどもの到着だ」

 フリーハンズのマイク越しにランスキーはデワンにそう連絡した。

『慌てるな。作戦どおり、できるだけ連中を引きつけてくれ』

「わかった」

 ランスキーはスナイパーライフルの弾丸を装填した。

「だが、やってはみるが数が多い。これじゃ、あまり長居できそうもねえな」

『死守とは言わんよ。できる範囲でいいさ』

「すまんな」

 ランスキーはそう言い終わると同時に引き金を引いた。
 数百メートル先でクラウンの隊員の一人が倒れる。

「敵襲!」

 隊員たちが周囲を警戒しながら身を屈めた。

 もう一人が狙撃され倒れる。

「スナイパーだ!」

 部隊を率いて施設に乗り込もうとしていたデラルテは立ち止まって周囲を見渡す。

「上空のブラックホークで山の方を掃射させろ」

 ホバーリングしていたブラックホークが山の方に向う。高度を下げるとッチが開き、機内に残っていた隊員がM60の
銃口を山の方に向けた。

『やれ!』

 デラルテの無線の合図と共に機銃の掃射が始まった。
 木々が無差別に吹き飛ばされていく。
 その中でランスキーは冷や汗もので身を潜めていた。




 3章

 一方、ミッシェルたちは――

「施設の見取り図を見た時に汚染物質を溜めておくタンクが離れた場所に設置されてるのに気がついたんだよね」

 ミッシェルは前方をサブマシンガンを向けながら進んだ。しばらくすると目の前にバイオハザードのマークが大きく描かれたドアが見えた。

「ここは丘の中をくり抜いて作ってあって汚染物質はちょうど丘の反対側の下の方に運搬口を置いてる。ミッシェル、わかったわ! つまりここは脱出口になるって事ね」

「そういう事。これがプランB」

 ミッシェルは前を塞ぐフェンスを蹴破った。
 再びでワンから通信が入った。電波の入りが悪いのか無線にノイズが増える

『聞こえるか。クラウンの本隊が到着した。ランスキーが足止めをかけるがそう長く続かないだろう』

「はっ! あのロシアンガイに男を見せてみろって言っといてよ」

『奴もがんばってるんだよ』

「どうかな」

『それよりそっちの状況は?』

「配管道に入ったけどノイズがひどくなる一方。一時的に通信不能になるかも」

『わかった。一旦、無線を切る。気をつけろよ』

「ありがと、デワン」

 MP-5に備え付けられたフラッシュライトを点灯すると暗闇が白く冷たい光に照らされる。
 ジェシカたちも続いて中に入ったがミッシェルは、立ち止まっていた。

「どうしたの? 早く行きましょう!」

「いや、ちょっと電話をかけるのを忘れてた。電波が届いてる間に済まさないと」

 そう言うとミッシェルは携帯電話を取り出した。

「こんな時に電話?」

「大切な電話なんだよ」

 ミッシェルはそう言うと携帯電話のボタンを押した。
 同時に遠くから何かの音が聞こえてくる。

「何? この音」

「へへへ、サプライズ」

 聞こえてきたのは爆発音だった。
 施設内のいたるところで一斉に爆発が起きていたのだ。




 爆発で燃え上がる施設をデラルテは見上げた。

 連中の仕業だ……やるじゃないか。気に入ったぜ!

「アルファチーム! 俺に続け」

「しかし炎が……」

 デラルテは躊躇している部下の顔にハンドガンを突きつけた。

「俺が来いと言ったら来るんだ」





 4章  

 その頃、ソールス社のオフィスでは――

「なんですって?」

 ブレンダの声が大きくなる。

『もう一度言う。送ってくれたデータには一部欠けた箇所がある。しかも重要な箇所だよ』

「そんな馬鹿な」

『我々のスタッフもソールス社に劣らず優秀なんだ。おかしい箇所は分かる。彼らによると巧妙に書き換えられているそうだ。問題とは思わないかね?」

「これは何かの手違いです。こちらでも早急に調査をし、さっそく転送し直しますので」

『君はソールス掌握し切っていないんではないのかね? この合併に反対するグループがあるのでは?』

「そんな事はありません」

『なら、こんなミスは繰り返さないほうがいい。でないと今後の君の立場を変わるぞ』

 ネット通信はそこで終わった。
 ジェシカはすぐに社内のデータベースにアクセスをした。自分とジェシカの研究にだ。

「バックアップデータが消えてる……いつのまに!」

 残っているデータは送信したものと同じだ。正常なものを送信しようにもオリジナルがサーバーの中に見当たらない。ブレンダの顔つきが変わった。

「やってくれたわね、ジェシカ」

 ブレンダはデスクの上に置いてあったコーヒーカップを壁に投げつけた。




 5章

 暗い配管道をミッシェルたちは進んでいた。

「ミック、大丈夫か?」

「平気だよ。それよりジェシカが」

 ミックにそう言われてジェシカを見ると確かに顔色が悪い。

「大丈夫? センセイ」

「ここは少し空気が悪いわね。でも大丈夫よ。先を急ぎましょう」

 確かに空気は悪い。ミッシェルの被るアビオニクスマスクのゴーグルの内側にさっきから空気中の成分が表示されている。しかも赤く点滅して。その表示は、人の身体にあまり良くない物に決まっている。
 ミッシェルはマスクを外すとジェシカに渡した。

「これをつけて。マスクが空気を浄化してくれるわ」

「でも、ミッシェル? あなたは」

「私達は特殊な呼吸法の訓練も受けてる。少しの時間なら大丈夫よ」

 そう言ってミッシェルは片目を瞑ってみせた。

「ありがとう……」

 ジェシカはマスクを被ると呼吸を整えた。
 ミッシェルはその傍らのミックを見る。
 この空気の悪い中でも元気そうな顔つきだ。やはり特殊な細胞のせいなのだろう。
 その時、背後からライトの光が指してきた。

「いたぞ!」

 追ってきたクラウンの隊員だ!

「もう来たのかよ!」

 ミッシェルはサブマシンガンを撃ち始めたが、すぐに弾切れになってしまう。

「ちっ!」

 ミッシェルの弾切れに気付いたクラウンたちがアサルトライフルを構えながらゆっくりと近づいてくる。

「弾切れか? いい様だな」

 隊長のデラルテ・ボーンが姿を現した。

「運も尽きたってことだ。大人しく実験体のガキを返せ」

 デラルテはハンドガンを抜くとミッシェルに向けた。その周辺に隊員たちがアサルトライフルを構えながら射撃位置についていく。

「ミッシェル・ウォン。お前の腕は知ってる。だがわかるだろ? 一発撃つ間に、こっちは何百発だ」

 そう牽制されたミッシェルは腰のホルスターに手を近づけずにいた。

「ムカつくくらいよくやってくれたよ。だがここまでだ」

 勝ち誇ったデラルテだったがミッシェルは追い詰められた眼をしていなかった。

「そいつはどうかな?」

 ミッシェルはそう言ってにやりと笑う。
 デラルテは、その微笑に危険を感じ取った。
 その時だ! 
 周りにいた部下達が倒れはじめた。
 それに気がつき振り向くと素早い蹴りが飛んできた。ぎりぎりのところでそれを避けたデラルテは体勢を崩しながら距離をとった。反撃を為の銃を向けようとしたが銃声と同時に弾き飛ばされた。

「誰だ!」

 暗闇の中から黒いアビオニクスマスクが見えた。

「デワン!」

 デザートイーグルを片手で構えたデワンが姿を現す。

「クワン・ゲド・デワン! どこから湧いて出た? 」

「正面からさ、デラルテ・ボーン。お前の外にいたお前の部隊は全部ぶっ倒したぜ?」

 動揺したのかデラルテの動きが一瞬止まる。

「地獄でラスが待ってるぜ」

「地獄? 笑わせるな」

 その言葉と同時に配管の上からナイフを持った隊員が飛びかかってきた。それに反応したデワンはデザートイーグルの引き金を引いた。近距離で大口径の弾丸を受けた隊員は壁に叩きつけられる。
 が、デラルテはその隙を見逃さなかった。下から繰り出す蹴りでデワンの右手のデザートイーグルを弾き飛ばした! 次にデラルテは腕に仕込んだブレードを出す! 対してデワンはグルカナイフを抜いて応戦の構えをみせていた。

「このナイフに見覚えがあるだろ?」

「さあな」

「ラスからもらったもんだよ。こいつでケリをつけてやる」

「ばかめ!」

 先に仕掛けたのはデラルテだった。1、2で左右のブレードを交互に突く。寸でのところでそれを交わしたデワンは体勢を崩しながらナイフを切り上げた。デラルテはクロスしたブレードでその一撃を食い止めた。

「やるな。デワン」

「まだこれからだぜ!」



 6章

 ミッシェルはハンドガンの弾層を確認した。

「弾切れ?」

 ジェシカが心配げに尋ねる。

「いや、大丈夫」

 ミッシェルは大きく深呼吸した。

「来るわよ! ミッシェル」

 ミッシェルの目が見開かれた。生き残ったクラウンの隊員が壁に寄りながら接近してくる。
 銃声が狭い通路に響いた!
 倒れたのは接近してきたクラウンの隊員だった。
 反撃の為にアサルトライフルを構える別の隊員だったがその途端、ミッシェルのワルサーP99からの一撃を受ける。他の隊員も同じだった。射撃体勢に入る順番に顔面を撃ち抜かれていった。
 P99の弾を撃ち尽くす頃には追撃してくる追っ手はいなくなったいた。
 射撃体勢を崩すとカートリッジを交換しはじめるミッシェル。

「いくら再生するっていってもそこはきついだろ。ねっ! セイセ」

「というより致命傷よ」

 ハンドガンをホルスターに戻すミッシェル。

「さあ、後はデワンに任せていこ!」

 ミッシェルはジェシカを急かすと走り出した。



 部下がやられたのに気付き後を追おうとするデラルテだったが行く手をデワンが阻む。

「行かせるかよ。これでお前のクライアントの企みはここで終わりだ」 

 デラルテは仮面の下でほくそ笑んだ。

「そう思うなら思えよ。俺が何の手も打たずにいると思うならな」

「何?」



 7章

 出口が見えてきた。
 周りが照明ではない自然光に照らされている。
 5つほど並ぶ汚染水のタンクを横切ると金網が見えた。
 ミッシェルはP99を構えると金網に掛かっていた鍵を撃ちぬいた!

「この先に車がある」

 林を抜けると日本製の4WD車が置いてあった。あらかじめミッシェルたちが用意していたものだ。

「うまくいったわね」

 ジェシカが、ほっと息をつく。

「ああ、ここまではね。けどまだ危険よ」

 ミッシェルは変装していたクラウンのボディアーマーを脱ぎ捨てると愛用の黒いスーツを羽織った。

「早く離れなきゃ。あんたたちは後ろへ」

 そう言いながらミッシェルは運転席に乗り込んだ。ジェシカとミックも後部座席に車に乗り込む。

「行くよ!」

 エンジンを掛けアクセルを踏み込むミッシェル。タイヤが土を蹴り上げると車は急発進する。
 その目の前に何かが飛んでくるのが見えた!
 ミッシェルは危険を察知してハンドルを切った。狭い道を飛んでくる物体をわずかに避けると車は道を塞ぐような形でスライドして止まった。
 背後で爆発が起きる。

「ロケット弾? マジ?」

 道の先に何かが立っているのが見えた。
 人の形をしてはいるがその大きさは人間よりずっと大きい。

「なんなの? あれは」

 ジェシカは道の先に立つダークグリーンの機械を指差した。

「ヤバイそうね……」

 ミッシェルは"そいつ"を睨みつけた。

「PA−10Aだ。戦闘用のパワーアシスト"ウォーリアー"。軍の歩兵用の最新兵器だよ。嘘でよ? こんなモノまで持ち出すなんて信じられないよ」

「パワーアシスト?」

 ジェシカもその呼び名は聞いたことがある。歩兵が乗り込む歩行装甲と言ったところだろうか。特殊なファイバー装甲で覆われ連動する機械の手足は歩兵の欠点だった防御性と移動速度をカバーできる。おまけに備え付けたウェポンは装甲車並みだ。"一人戦車"といった形容が合っている兵器だった。
 そしてそのロボットの様な姿は遠目に見たら人の真似をした巨大な昆虫の怪物だ。
 PA−10"ウォーリアー"のから発せらる照準レーザーがミッシェルの胸に当てられた。
 同時に両手に持ったガトリングガンがモーター音と共に向けられる!
 ミッシェルはバックギアに入れ替えるとハンドルを切って車のは向きを直した。

「どうするの?」

 ミックを抱きしめながらジェシカが言う。

「相手が悪すぎ。とにかく逃げる!」

 走り出そうとする車だったがアクセルを踏み込んでも進まない。オートマチックのレバーを見直したが入ってるギアは間違っていない。

「くそっ! なんで!」

 車におかしな振動がおき、バックミラーに見えるのはもう一台のPA-10ウォーリアーだった。

「伏せて!」

 車が後部から持ち上げられていく。後部にミッシェルはハンドガンを向けて撃った! ガラスを割り、銃弾が放たれたがウォーリアーの装甲は易々と跳ね返した。

「くそっ!」

 ウォーリアーのカメラアイが無気味に赤く光る。
 PA-10ウォーリアーは車の後部バンパーを掴むと、そのハイパワーで車を横転させた。特殊な燃料電池からエネルギーを得て最大1500馬力を搾り出す超小型モーターにとっては造作も無いことだった。

「だ、大丈夫? センセイ」

「ええ」

「ここから出ないと」

 車か這い出るミッシェルたちだったが左右から2台の鋼鉄の兵士が近寄ってくる。
 ミッシェルはワルサーP99のカートリッジを取り換えたがこの兵器には通用するとは思えない。

 どうすればいい……デワン

 ミッシェルの脳裏にデワンの顔が浮かぶ。

 彼ならどうするだろう? 

 その時、デワンが昔言ったある言葉が浮かんだ。

「Who Dares Wins(挑みし者が勝つ)」

 デワンのよく言う言葉だ。その言葉を思い出した時、ミッシェルは決意していた。

「ふっ……そうだよね。やってみないと」

 ミッシェルはワルサーP99を構えると近づいてくるウォーリアーに銃口を向けた。




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