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 ●カリシルアの戦歌

W・ガルバ @


 インフェリアが誕生したのは推定35億年程前だ。
 科学者の話では南半球には巨大な楕円クレーターが存在しているという。大陸を覆う程の巨大さと風や水による浸食や豊富な森林が覆い隠していた為、クレーターと気がつかなかっただけであった。大気圏外からの特殊撮影があって初めてその事実に気がついたのである。
 地球の天体物理学者たちは大いに興味を示していた。クレーターを作ったのは隕石なのか、それとも氷の塊である彗星なのか。
 現地を調査すれば仮説を裏付けられる祥子の採取もできるのかもしれないが、それは叶わなかった。
 何故ならクレーターの中心に陣取っているのは機械生命体ガルバの要塞なのだ。

 ガルバの要塞はインフェリアにおける拠点だった。
 彼らが初めて降り立った地でもあるその場所は、今ではガルバの世界だ。緑の木々は全て伐採され、ガルバ自身を生産する多くの工場が作られている。膨大な鉱物資源が原料にあてられていた。
 最初、インフェリアに降り立ったガルバは、ほんの数十体だと言われている。それが一時は5万体以上に膨れ上がった。昼夜を問わず、工場ではガルバたちが生まれ、前線に送り込まれていくのだ。それは抗体のないウイルスと同じだった。
 インフェリアと地球の連合軍は、ある特殊な対策を講じた。"抗体"となる対策を見つけたのだ。
 それが"戦歌"である。


 *  *  *  *  *


「お疲れです。准尉」
 カリシルアから降りたキーファを整備兵が声をかける。
「ああ」
 キーファはろくに返事をしないでコクピットから出た。
 続いてラミラが追うようにガンナーコクピットから出る。
「キーファ准尉」
 ラミラが滑走路を速足で進むキーファに声をかけたがキーファは無視して歩いてく。
「キーファ・アスガート准尉!」
 ラミラが周りの者が振り向くくらいの大声で呼んだ時、キーファはようやく立ち止まった。ヘルメットを抱えて駆け寄るラミラ。
「なんだ?」
「お礼を言いたくて」
「お礼?」
「カリシルアを動かしてくれたおかげでガルバに破壊されずに済みました。みんなあなたのおかげです」
 キーファは視線を外した。
「成り行きさ。それにアンタもそれなりに頑張ったろ? 俺だけの力じゃないさ」
「でも……ありがとう」
 キーファは軽く頷くと背を向けた。ラミラはキーファの様子がおかしい事に気がついた。さっき会った時の感じとはだいぶ印象が違う。
「どこか具合でも悪いのですか? まさか被弾しましたか?」
 ラミラは気になって声をかけた。
「いや、違う。久しぶりの戦闘だったんで、ちょっと疲れただけさ。気にしないでくれ」
 キーファは背を向けたままそう答えると再び歩き出した。
 ラミラはそれをずっと見送り続けた。


 キーファは無事な施設に入ると洗面所に入った。
 そのとたん洗面台に向かって吐き出した。
「大丈夫かよ」
 顔を洗ったキーファが振り向くと入口にパイロット仲間のカレン・エディルーネが立っていた。
「ここは男子用だぜ」
「ここしか無事なトイレがないんだよ」
 カレンは整った顔立ちの女性パイロットだったが言葉づかいは乱暴。男みたいな言い方を好んで使う。
「あの秘密兵器に乗ったって?」
「成り行きだ」キーファはラミラに言った時の様に素っ気なく言う。
「どうだった?」
「ロボット型ってのはパイロット養成所以来だが、それでも中々扱い易い機体だったと思う」
「量産化するのかな?」
「さあな」
「きっと、アンタがあれに乗るんだろうな」
「他にもテストパイロットはいるぜ。お前だって可能性はある」
「あたしは戦闘機タイプの方が好きだ」
「おまえでもきっと気にいると思うぜ、あれは」
 キーファは再び顔を洗い始めた。
「あれは、いい機体だよ」


 *  *  *  *  *


 基地は、その機能の70%を失っていた。
 使える滑走路は僅かで、格納庫にあった戦闘機は実験機を含めその半数が破壊されていた。
 破壊されたガルバの機動兵器の残骸を兵士たちが重機を使って片付けている。
 その中で一人の工兵が奇妙なパーツを見つけた。一見、意味の分からない部品、あるいは破損してねじ曲がった破片のようであったそれに他のものと違うと気がついたのは彼女ひとりだった。
 なにかしら?
 レインはインフェリアに来て半年の工兵だ。戦闘機やテスト機の整備チームのひとりだった。コンピューターから機械的な事まで器用にこなす。当然、上からは重宝がらるタイプだった。
 レインは、その気い妙なパーツを拾い上げると顔を近づけた。何か妙な感じに気がつき、作業用手袋を外すと素手でそれを触ってみた。
 暖かい……それに何か振動している
「おい! レイン。 そこにリフトを通すからどけ」
「了解!」
 レインは、その奇妙な部品を慌ててポケットにしまいこんだ。




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