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15、Who Dares Wins 8章




 光源の小さい壁のライトに照らされて金属がぶつかり合って火花を散らしていた。
 左右から繰り出されるブレードをデワンは寸でのところで交わしていく。

「やるな。デワン」

 距離を置いて体勢を立て直そうとするデワンの動きを許したデラルテはそう言った。
 一撃を加えられないでいる自身も一旦、攻め手を考える時間が欲しかったからだ。

「こっちのセリフだ。殺し屋」

「それはお前も同じだ。殺す命に代わりは無いぞ。悪人も善人も」

「お前はどっちだ?」

「俺は殺す側。どっちでもないね」

 次の攻撃方法をいくつか思い浮かべながらゆっくりと横に移動するデラルテ。
 復活細胞を持つ奴に決定的な致命傷は与えられない。普通の人間であれば致命傷でもデラルテの細胞はすぐに"修復"してしまうだろう。

 どう攻めればいい?

 デワンはデラルテを注意深く見た。
 仮面越しで表情は見えない。目線や心理状態も読み取れはしない。デラルテの仮面はいつも笑っているだけだ。
 が、その時、デラルテの目の部分に僅かに動きがあるのに気がついた。
 焦点を合わせるカメラのレンズの様な精密な動き。

 奴は俺を庇って顔を焼いたんだ……死んだラス・タンの言葉が思い出された。
 そうか!
 その時、デワンにある考えが浮かんだ。

「何故、ラスを殺した?」

 そのデワンの唐突な言葉にデラルテは小首をかしげる。

「おかしな奴だな。今さらそんな事を聞きたいのか?」

「聞きたいんだよ」

 何かの時間稼ぎかとも思ったがデラルテはそれに付き合う事にした。相手に合わせながら出方を探るのはデラルテの癖だった。

「俺達の情報を漏らされたくなかったからだ。単純に口封じ。それだけさ」

「お前達は戦友じゃなかったのか? 少なくとも奴はお前を信じていたぞ」

「戦友? 俺の怪我を自分のせいだと勘違いした奴が勝手に思っていただけだ。そう思えば自分の贖罪を逃れられると思ったのかな」

「そういう奴なんだよ」

「だが、それに関しちゃ俺は、これっぽちも奴のせいだとは思っちゃいないぜ? たまたま、駆け寄った先にグレネードが炸裂しただけさ。お陰で俺の"生"の右目は失われた。その傍にラスがいたのは単なる偶然。それを奴がどう解釈しようと勝手だ。俺は特に否定もしなかったしな」

 デラルテは仕込みブレードを構えながらゆっくりと間合いを取り始めた。

「借りを作らせたと思えば何かに利用できるかもしれないしな。こいつは銀行の預金と同じさ。いつか必要になって降ろす時まで預けておくんだ。で、今回、俺はそれを降ろさせてもらった。利子付きでな」

「お前はラスの良心を利用したんだ」

「おいおい、ラスとは気は合ってたんだぜ? いいヤツとは思っている。だが俺は他人は信用しない」

 2つの事が分かった。
 デラルテの右目は機械化してる。ソールス社の実験に関わる前に。
 もうひとつはクソ野郎だという事だ。

 デラルテの攻撃が始まった。
 デワンのわき腹をブレードが切り裂く。転げるデワンはうずくまった。

「もらったぜ!」

 デラルテは止めを刺そうと近寄った。
 しかしうずくまっていたデワンは隠し持っていたハンドガンをデラルテに向ける。

「おい、汚いぞ」デラルテの動き止まった。

「お前ほどじゃない」

 引き金が引かれ銃弾がデラルテの右目を撃ちぬいた!
 よろめきながらも反撃しようとブレードを振り回すデラルテは右目を押さえながら後退した。指の間から煙が洩れている。再生が始まっているのだ。

「残念だったな。ソールス社の試験薬を使っている俺は殺せない」

「だが視界半分は奪った」

「何?」

「お前、右目は機械だろ。復活細胞の左目は再生するだろうが右の人工部品交換しない限り再生は無理だぜ」

 デラルテは足元に転がるアサルトライフルを足で蹴り上げた。そして蹴り上げたライフルを掴むとデワンに向けて撃ち始めた。しかし視界が悪いせいで銃弾は外れ、デワンは易々と物陰に逃げ込んだ。

「この臆病者の黒マスク野郎! ぶっ殺してやる!」

 暗い配管道の中で叫ぶデラルテはライフルを撃ち続けた。
 配管に陰に隠れたデワンはハンドガンの弾を確認すると元に戻した。

「臆病者で結構だ。お前らと違って俺の命に払い戻しはないからな」

 そう言い返した後、デワンは大きく深呼吸した。

「さて、決着をつけるか」

 そう呟くとデラルテの足元に閃光弾を転がした。
 破裂音がすると同時に暗い配管道が眩い光ど煙で覆われていく。半壊したデラルテのアビオニクスマスクの無事な左レンズが強烈な光を防ぐ為に調整を始めた。光と煙の中、デラルテはG36Cアサルトライフルを周囲に撃ち続けた。
 その時、デワンは配管を陰に視界を奪われた右目の死角から忍び寄っていた事にデラルテは気が付いていなかった。

「どこだ! デワン!」

 殺気だったデラルテが左に僅かに顔を向けた時だった! デワンは、デラルテに飛びかかった!





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