Dファクトリー

 ●カリシルアの戦歌

T・戦いの惑星 1


 惑星インフェリア
 地球から数千光年離れたこの星は豊富な酸素と水を持つ惑星だった。
 恵まれた環境の、この星には知的生命体が生存していた。
 人類はこの知的生命体を「ヒリア」と名づけた。
 それは彼らの言葉で"人間"という意味だ。
 人類が初めて彼ら「ヒリア」にコンタクトを取った時、彼らは大きな問題を抱えていた。
 侵略者の存在である。
 「ヒリア」の言葉で"人間でない者"の意味の彼ら「ガルバ」たちは、交渉も警告もなく唐突に侵略を開始。インフェリアの大地には機械生命体である「ガルバ」自身の生産工場が建造された。この強引な開発で多くの森が焼かれ湖が汚された。
 先住種族のヒリア人たちが抵抗をしたのはいうまでもなかったが進んだテクノロジーを持つガルバは手強く、状況は悪化していった。
 そしてヒリア人との交流を始めて8年後、はるか彼方のトラブルに最初は傍観していた地球軍もインフェリア解放の為、大規模な軍事作戦を敢行する。
 作戦開始後、数か月でインフェリアでの形勢は逆転してものの地球軍に多くの損害を出す事となった。
 そして2年が経過した。
 だが戦いはまだ続いている


「こちらブラボーワン、予定空域に入る」
 青天の大気の中、複座式の戦闘攻撃機が北に向かっていた。
「レーダー作動中。だがターゲットはまだ感知できない。失敗か?」
 雑音混じりの返信が入る。
『ブラボーワン、テストターゲットの打ち上げが遅れている。すまんが旋回を続けてくれ』
「了解」
 後部座席のパイロットは肩を竦めると操縦する前のパイロットの肩を叩いた。
「だとさ、キーファ」
 パイロットは操縦桿を上げると機体を上昇させた。
 本来の目的は地球から届いた新型レーダーのインフェリアでの適応性をテストする為だった。しかしテストターゲットの遅れで出来た余裕の時間をパイロットは別の目的に使う事にした。
 機体は上昇を続けたが、すぐに青い空は夜の様になり、下にはインフェリアの大地が曲面をみせている。今、テスト機がいるのは大気と宇宙の境目だ。
 操縦桿を握るキーファは、この大気と宇宙空間の境を見るのが好きだった。
「ヒーハァ! 最高だな! キーファ」
 後部座席のルーザが興奮気味のそう言う。
「ああ、いい景色だ」
 変わらぬテンションで答えた操縦桿を握るキーファも内心は十分楽しんでいた。
「だが、じきに基地から文句が来るぜ」
「来たら降ろせばいいさ」
「だな」
 その時、キーファはレーダーに何かが映ったのに気が付いた。
「おい、ルーザ」
「なんだ?」
「テストターゲットの打ち上げは遅れてるんだったよな」
「そう言ってたぜ」
「じゃあ、今、レーダーに映っているのは何だ?」
「おっと、やばいぜ……テストを開始したのかも」
 ルーザは、慌てて新しいレーダーのシステムを見る。
「ターゲットは降下中」
「おい、ルーザ」
「なんだ」
「ターゲットは打ち上げの筈だろ? こいつは降下中だ。変だぜ」
 そうしてるうちに基地から返答の通信が来た。
『ブラボーワン、ターゲットは、まだ打ち上げされていない』
 基地の管制室からの返事にパイロット2人は眉をしかめる。
「ルーザ、ターゲットの識別は?」
「まてまて、えーと」ルーザが慌ててディスプレイの表示を確認する。
「地球軍の宇宙駆逐艦の識別だ!」
「友軍か」
「ああ。だが、それ以外のオマケも付いてるぜ」
「オマケ?」
「ガルバどもの機動兵器が2機喰らいついてやがる」
 レーダーに映った敵の存在にコクピット内の緊張感が高まっていった。


 * * * * *


 第22宇宙軍基地の管制室は慌ただしくなっていた。
 状況を把握しようと基地指揮官のウォーター大佐は、部下に指示を出しまくっていた。
「アンノーンは、アルテミス級強襲駆逐艦"サジタリウス"と判明。大圏内活動可能艦です。識別は特務部隊所属コード・ブラック」
 オペレーターが早口でウォーター大佐に報告する。
「コード・ブラック?」
 気の利いた下士官の一人がウォーター大佐にファイルを渡した。
「本基地に到着が予定されている艦ですが到着は18時間後の筈です」
 ウォーター大佐は顎に手をやりながら思案する。
「"サジタリウス"は、なぜ、応答しない」
「大佐、この艦は偽装艦の可能性はないでしょうか?」
「いや、通信できない状況なのかもしれない。早計な判断はやめておこう。サジタリウスはガルム(ガルバの機動兵器)の追撃を受けているといったな?」
「はい。近くにいる新型レーダーのテスト機からの報告です」
「キーファーとルーザの機か?」
「そうです」
「キーファ機の武装は?」
「空対空ミサイルと機銃を装備中です」
「支援はできるという事だな」
 ウォーターが選択支を思案する。下士官たちは指揮官の決断を待った。
「現在、飛べる隊は?」
「第13飛行小隊がいけます」
 ウォーター大佐が決断した。
「よろしい。第13小隊の発進準備だ。まだサジタリウスからは救援要請は来ていないが、司令部からの指示があり次第、第13小隊を向かわせる」
「大佐」
「なんだ?」
「サジタリウスは北西に向けて降下中。基地から離れています。このままでは第13小隊を発進させても追いつけなくなる可能性もでてきますが」
 ウォーター大佐は再び決断を迫られた
「大佐」
「今度はなんだ?」
「ブラボー・ワンから攻撃許可の要請が来ています」


 滑走路では基地の守備隊である第13小隊のパイロット、カレン・エディルーネが苛立っていた。
「なんで、発進許可がでない? 味方が襲われてんだろ?」
 カレンはコクピットの風防に拳を叩きつけた。
 空と同じ青くカラーリングした戦闘攻撃機GF-64は、空対空装備を済まし既に暖機運転もを終えていた。命令さえあればいつでも飛びたてる状態だ。
「きっと司令部から指示がでないのよ。落ちついてカレン」
 後部座席のヒリア人キリオ・エラ・ミルミは、感情の高ぶるバディをなだめた。
「ちっ! 玉ナシめ」
「何? カレン?」
「なんでもないよ。ただイラついた時に言う地球の言葉を使っただけ」
「タマナシか……うん、覚えておくわ」
 後部座席のヒリア人は、そう言ってカレンの言葉をメモし始めた。
「キリオ。それ、たぶん人前で言わない方がいいと思う」
 第13小隊の戦闘攻撃機は、そのまま待機を続けた。


 * * * * *


 一方、降下を続ける強襲駆逐艦"サジタリウス"から小規模な爆発が始まっていた。
 それはブラボー・ワンの探知システムで感知していた。
 ブラボー・ワンのパイロット、キーファは基地の管制室に攻撃許可を求めていたが未だ返事は来ない。だが、その機首は、すでにサジタリウスに向けられている。
「おいおい、キーファ、いいのか? 命令違反になるぜ」
 後部座席のルーザが言った。
「進路を外れてるだけだよ。命令違反じゃない」
「へへ、よく言うぜ」
 相棒の屁理屈にルーザは肩を竦めた。
 その時、基地のウォーター大佐から通信が入る。
『ブラボー・ワン』
 キーファとルーザはその通信に耳を傾けた。
『キーファ少尉。援護を許可する前に聞いておきたい』
「なんでしょうか? 大佐」
『戦闘になった場合、対応は可能か?』
「どういう意味です?」
『言葉の通りだ。君が耐えられるか聞いているんだ』
 基地からの問いかけにキーファは沈黙した。
 後部座席のルーザが心配そうにキーファを覗き込む。
『准尉?』
「大丈夫です。戦闘は可能です」
 キーファの返答の後、今度は基地の方が沈黙した。
「あまり時間はありませんよ。大佐」
 しばらく間をおいた後、ようやく基地から返事が来た。
『わかった。少尉、支援を許可する』
 ルーザがキーファに親指を立ててみせた。
『サジタリウスに接触したら状況を逐一報告するんだ。いいな』
「了解、映像をそちらに回します。ついでに記念写真も?」
『それはいらん。急げよ』
 そこで通信は終わった。
「よし! キーファ、許可が出た。ぶちかましてやろうぜ!」
「オーケー! 飛ばすぞ、掴まってろよ!」
 戦闘攻撃機GF-64"ギガゲイ"はアフターバーナーを全開にした。



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