Dファクトリー

 ●カリシルアの戦歌

V・紅のカリシルア

2稿目


 カリシルアはスピアーを構えた。
「このスピアーは格闘戦用の兵装です」
「格闘だって? これだからロボットってヤツは……」
 2機のガルムはカリシルアを捕えようと腕を伸ばした。カリシルアはその手をスピアーで切り落とした。
 切断面から黒いオイルが吹き出し周囲にまき散らした。悲鳴にも似た機械音をさせたガルムが後退する。
「結構、いけるじゃねえか」
「超振動させた高セラミックの刃は大気中であれば切れない物質はありません」
「悪くない」
 別のガルムの腕から銃砲が突き出しす。照準はカルシリアに合わせられている。
「撃たせるかよ!」
 カリシルアの超高速の踏み込みはスピアーでガルムを貫く!
「どうだ!」
 ラミラはカリシルアの動きに驚いていた。
 テストを繰り返していたヒリアもここまでカリシルアの機体を動かすバディは見たことがない。
 只者じゃない。
 この時、ラミラは初めてこの地球人パイロットの腕を認めた。
 一方、腕を切り落とされ攻撃力の落ちたもう一機のガルムはカリシルアの隙を突こうと背後から忍び寄る。
「見逃してないんだよ!」
 キーファは、カリシルアの機体を回すと背後のガルムにバックスピンキックを叩き込む。カリシルアの脚が頭部にヒットしたガルムはその場に倒れた。さらにカリシルアは、その上からスピアーを突き刺す! 動力源と断たれたガルムは今度は完ぺきに機能を停止させた。
「これで片づいたな」
 カメラで格納庫内を見渡すと内部はガルムと破壊された物資の残骸で埋まっていた。
 その中をカリシルアは地上に繋がる物資用エレベータに向かう
「何かいる?」
 キーファはカリシルアの前に立ちふさがる陰に気がついた。
 基地の兵士だったが様子が違う。恐らくガルバに取り込まれているのだろう。
「邪魔だぜ。踏むつぶすぞ」
 兵士はカリシルアを見上げた。
『さすがに地球軍の秘密兵器だ。捕獲された半壊のガルムとはいえ高い性能を有しているようだな』
 兵士はそう言った。
「なんだ、こいつ。カリシルアを止めようってのか?」
「気をつけてください、キーファ。様子がおかしいです」
「ああ、様子のおかしいのはわかってる」
 兵士はカリシルアに向けて指を差し何か叫んでいる。
『ガルムは撃破したがこいつはどうかな? 来い! ギャリオル!』
 それを合図に背後から新たなガルバの機動兵器が現れた。


 *   *   *   *   *


 現れた新手の機動兵器の大きさは、カリシルアを一回りも上回っていた。
 緑色に輝く目らしき部分が、カリシルアを見下ろしている。その腕にはいつの間にかさっきの兵士が乗っていた。
「行け! ギャリオル! 奴のパーツを剥ぎ取ってやれ!」
 それを合図にギャリオルは、カリシルアに飛びかかった。
 キーファはホバー装置を使うと後方に逃げた。敵との間に余裕が出る。
「なあ、ヒリアのおねえさん。ぶっ放せるやつはだめだっけ?」
「先ほども申しましたが、この施設を巻き込む可能性の大きい威力があります。それと私は"おねえさん"ではなくラミラ・ミル・シシラという名があるのでそちらで呼称してください」
「OK、わかった。だがこの怪物相手には、そうも言ってられなそうだぜ」
 カリシルは態勢を立て直してスピアを構えてた。敵の機動兵器ギャリオルも身がまえて対峙した。
「それとあんたの名前は少々長いからラミラで止めとこうぜ」
「結構で……わっ!」
 カリシルアは、ホバーの出力を急激に上げギャリオルに突撃する。反動でコクピットのラミラが前のめりになる。
「いくぜ!」
 ギャリオルの腕からソードが飛び出すとが狙い通りとばかりに直進するカリシルアに狙いを定めた。上から振り下ろす気だ。
 だが、直前でカリシルアは急角度で方向を変える。ギャリオルの振り下ろされたソードは床に突き刺さった。さらに回り込むように旋回していくカリシルアはギャリオルの背後をとる!
「いただきだ!」 
 無防備の背中めがけてスピアが振り下ろされた。だが背部分の装甲がはじけ飛ぶと砲口が剥き出しになる。
「ちっ!」
 直感で危険を感じたキーファは機体をひねる。ほぼ同時に砲口から発射された粒子ビームがスピアーの半分を吹き飛ばした。バランスを崩したカリシルアは倒れ込む寸前だったが絶妙なホバー操作で機体を立て直した。
「今のはヤバかった」
 カリシルアを外したギャリオルの粒子ビームは格納庫の内壁を貫通し基地内を突っ切っていく。大きく開いてしまった穴から間をおかずに爆発が起きた。
 カリシルアは壊れたスピアーを投げ捨てた。
「ラミラ。こいつの最大推進力は?」
「カリシルアの最大推進力は140.5tです」
「悪くない」
「あなたは何を考えているのですか?」
「ここで使うのはまずいって言ってた武器な。すぐに撃てるように準備しておいてくれ」
「自暴自棄な戦術は不要な被害を及ぼしますよ」
「まあ、信じてくれよ。ヒリアの"おねえさん"」
 信じろだって? ろくに知らないこの地球人パイロットを?
 ラミラに一瞬、疑念が浮かんだ。だが、彼は、この数分でみせた操縦技能は通常のパイロットの技量をはるかに超えている。もしかしたら何か最良の方法うあってのけるかもしれない。
「わかりました。"ヘルファイア"を装填します」
「そいつは、強力なのかい?」
「ガルバの機動兵器部隊一個中隊を破壊できます」
「気に言ったぜ」
 キーファはカリシルア再びギャリオルに向けて突進する。今度は背中のジェットも加えている。加速度は数段上だ。
 無茶だ!
 ラミラは、彼に任せたのを後悔した。
 ギャリオルはすでに迎撃態勢をとっていた。肩部のキャノン砲を発射した。カリシルアの頭部をエネルギー弾が横切る。カリシルアは僅かに斜めに姿勢をずらしていたのだ。キャノンの第二弾が届く前に加速度が上がったカリシルアはギャリオルの懐にタックルする。カリシルアはジェットの出力をトップにまで一気に上げるとギャリオルを掴まえたまま浮き上がっていった。
 ギガは、セオリーに反した相手の行動に戸惑う。データにないパターンは彼らの計算量を急激に引き上げてしまう。たとえそれが高度に進化した機械生命体であっても数秒の"間"ができてしまった。それはキーファにとって十分な時間だった。
 カリシルアはギャリオルを掴んだまま狭い格納庫の空間を飛行した。機体のあちこちが物資や内壁にぶつかった。
「キーファ!」
 カリシルアは、強引に方向転換すると物資用エレベーターの移動サイロに飛び込んだ!
「任せろって!」
 そのまま、サイロを上昇していくカリシルアはさらに加速していく。
 数秒もするとカリシルアはギャリオルを掴んだまま地表に飛び出していた。


 *   *   *   *   *


 ギャリオルを掴んだままカリシルアは地上まで押し出した。
 強力なブースターは、二体のメカを空中まで飛び出していく。数百メートルの高度になった時、カリシルアはギャリオルを放り投げた。
 滑走路に叩きつけられたギャリオルは煙を上げる。
「これでド派手なヤツをぶちこめるよな」
 キーファは空中にカリシルアをホバーリングさせるとラミラにそう言った。
「え? ああ、はい」
 戸惑いながらも返事をしたラミラ。さすがにカリシルアのこの行動パターンは予想していなかった。
「さっきのおススメを頼むぜ!」
「わかりました……あの、ヘルファイアで?」
「それでいいから早く撃てって!」
「りょ、了解!」
 間の抜けた答えをした後、ラミラはガンナーコクピットで武器を操作した。次の瞬間、カリシルアから赤い光が放たれた。危険を察知したギャリオルは、避けようと動こうするが、放たれた光の矢の範囲は予想外に広く、ギャリオルは逃げ切れずに光の直撃を受けてしまう。
 滑走路に巨大な爆発が起きていく。

 爆発の衝撃は管制室の窓をすべて粉々にした。
「なんてこった」
 管制室で事態の収拾にあたっていた司令官のウォーター大佐はガラスの破片を払いながらそう言った。
「一体、何を使ったんだ?」
 大佐は滑走路上に立ちぼる巨大な火柱と爆煙を茫然と見つめていた。
「味方機の識別確認!」
 オペレーターが言う。
「誰だ?」
「識別コードは、ダブルアルファー1。カリシルアです!」
「あの地球からの新兵器か」
 大佐は双眼鏡で爆煙の方を見た。
 その上空には赤く光っている人型の戦闘兵器がホバーリングしているのが見えた。そのシルエットは、まるで自らの仕出かした事に後悔しいるかのように様だった。
 そしてその様子は遥か彼方からも見つめられていた。
 密かに軌道上の紛れ込んだガルバの偵察衛星は地上数万キロでの出来事を最初から最後まで記録したいた。




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