Dファクトリー

 ●カリシルアの戦歌

W・ガルバ B


 インフェリアのある星系の最端
 隕石群にガルバの宇宙艦隊が密かに終結していた。
 インフェリア太陽系から姿を消していたガルバの宇宙艦隊だ。
 地球軍により月から追い出され、周辺の宙域に展開していたガルバ艦隊、さらには増援が加わり、艦の数は千を超えていた。周辺の星系に展開していた自軍の艦隊を全て終結させたのだ。数では地球艦隊の数をすでに上回っている。
 その大艦隊の中央にあるのは歪な小惑星。
 地球軍の観測の際にすでに発見されていたその小惑星は"ミドガルズオルム"と名付けられていた。
 それは直径10キロにも及び、アングルボザの軌道上を周回する隕石群の中では最大のものだった。
 ガルバは数ヶ月前かtらこの"ミドガルズオルム"に改造を施していた。
 表面にはエンジン設備と防衛設備が建設され、いたる個所に武装が施され要塞化させていた。

 周囲の戦闘艦が艦隊に穴を開けるように陣形を変えていく。
 小惑星"ミドガルズオルム"に道をあけるように艦隊が展開した数秒後、緻密に計算されたタイミングで推進力が点火された。
 膨大な推進エネルギーは僅か3秒程だったが小惑星を軌道から外すには十分だった。
 こうして小惑星は"ミドガルズオルム"は、新たな軌道に乗った。
 何度かこの強力な推進力を使い軌道修正し、さらに付近を通過する惑星の引力を利用すれば、数週間後には十分な加速を得られるだろう。
 そしてその新たな軌道の先には、この星系で唯一生命体の生存できる惑星がインフェリアがある。



 *  *  *  *


 破壊を真逃れた食堂は、基地の兵士たちでにぎわっていた。
 ラミラとキーファはなんとか向かい合った席に座る。
「カリシルアの使ったあの兵器はなんだ? ただのビーム兵器じゃないだろ」
「あれは"戦歌"をエネルギー変換させたものです」
「戦歌?」
 騒がしい中、キーファは聞きなれない名前を聞き返した。
「ヒリアの昔から伝わる能力。ある種の波長をいくつかのエネルギー変化させ外部に影響を与える力です」
 地球軍がやってくるまでヒリア人たちは超能力を使ってガルバに対抗していたと聞いたことがあった。どうやら"戦歌"とはそのことらしい。
「超能力か」
「地球ではそういう形容もあるかもしれませんが、ヒリア人にはごく一般的な能力ですよ。攻撃だけではなく傷を癒す事にも使えます。ただし、個人差はありますけど」
「じゃあ、アンタはその"戦歌"とやらの能力が高いって事か?」
「少しだけ」
 ラミラは控えめに言った。
「少しって、ガルバの機動兵器を分解しちまったんだぜ。対地ミサイルでも仕留められない奴をだ」
「私の能力というよりカリシルアの増幅装置と変換装置の力です。戦歌の物質の内部に影響させる特徴を最大限に生かしたんです」
「まったく、だれが考えたんだか……」
 キーファは焼いた肉にフォークを突き刺した。
「じゃあ、他のもっとその戦歌とやらの能力が高いヒリア人をガンナーにしたらもっと強力な兵器になるのか?」
「そうかもしれませんが、システムが複雑すぎて私以外のヒリア人にチューニングするのは難しいらしいですね。いずれは解決させるでしょうけど」
「一点ものってわけだな」
「なんですって?」
 聞きとれなかったのかラミラが聞き返した。
「なあ、ここはうるさくて会話がしずらいな。なあ、場所を変えないか?」


 *  *  *  *


 インフェリアの月は綺麗だった。微妙な大気の違いによる影響なのか少し青みがかって光っている。
 この星に来て、あまりいい思い出はないキーファだったがこの月だけは気にいっていた。
「そこ足元にでかい破片がある。気をつけろよ」
 後についてきたラミラにキーファがそう言う。
 キーファはラミラと破壊された滑走路の上を歩いていた。滑走路の端まで来ると大きな瓦礫の上に座り込む。
「綺麗な月ですね。地球のものと違う」
 隣に座ったラミラは夜空を見上げるとそう言った。
「ああ、けど、アンタはこっちの方が見慣れてるんじゃないのか」
「いえ、私は地球育ちですから」
 意外な事実にキーファは少し驚いた。
「へえ」
「生まれたのはインフェリアですが、小さい頃に地球へ」
「知らなかった。ヒリア人の移住者なんていたんだな」
「移住というより、両親が亡くなったので地球の"父と母"に引き取られたのです」
「すまない。変な話をさせた」
「いえ、気にしないで。地球の父も母もは、良い方たちで私は幸せでした」
 そう言ってラミラはインフェリアの月を見上げた。
 キーファはその横顔をみた。他のパイロット仲間たちの間ではラミラは美人だと噂されていた。キーファは、あまり感心がなかったので特に気にもとめてなかった。だが、こうして真近に横顔を見ていると、そんなキーファでも思わず見とれてしまう。
 まるで物語に登場する伝説のエルフのようだ。
「なんですか?」
 キーファの視線に気づいたラミラが尋ねる。
「い、いや、別に」
 キーファは照れくさくなり、慌てて目をそらした。
「このインフェリアの景色も実は私には、ほとんど初めてのものなんです」
「悪くないだろ? 地球の自然は失われつつあるからな」
「ええ、インフェリアがこんな世界でよかった」
「ああ」
「だから、この世界は私たちがしっかり守らないといとね」
 そう言ってラミラはキーファに笑いかけた。





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