●カリシルアの戦歌
U・ソウルイーターズ 1
破壊されたガルバの機動兵器の破片が地上に落下た。
しばらくすると地球軍の偵察部隊が落下した残骸を確認すべくやってきた。
彼らは宇宙航空団所属だが地上部隊の訓練を受けた兵士たちだ。
装備も地上部隊の兵士たちとほとんど変わらない。違うのは記章と戦闘服のカラーくらいだ。
兵員を乗せた装甲車が煙が上がっている地点に到着した。
天井に取り付けられているオート機銃が周囲を警戒しながら左右に動く。
「降車! 降車!」
後部ハッチが開くと武装した兵士たちが素早く降りていく。
装甲車の中では兵士たちに取り付けたカメラの映像がディスプレイの中に映し出されていた。部隊の指揮官である少尉が映像を注意深く観て状況を把握しようとしていた。
「10m間隔で展開だ。注意しろ! 機械どもはしぶとい」
部隊は、軍曹の命令でアサルトライフルを構えた兵士たちは注意深く周囲の偵察を開始した。
ヘルメットに備え付けられたカメラが熱源を探知した。
「何かある」
一人の兵士が草むらをかき分け警戒しながら近づいていく。探知した物が肉眼で見える距離まで近づいた時だ。何かが兵士の顔に飛びついた! 叫ぶ暇もなく兵士の意識は遠のいていった。
カメラの映像が途絶えた事に装甲車内の指揮官が気がついた。
「マーフィーの様子がおかしい! 誰かフォローしろ」
隣に沿って捜索してた兵士たちがアサルトライフルを構えて倒れた兵士に駆け寄る。助け起こした時、その様子に驚いた。
「な、なんだ? これ」
顔にへばり付いた機械の一部が首をつたって身体の他の部分に配線が伸びていた。見てるうちにも配線は生き物のように伸び続けている。
兵士が仲間についている機械を剥がそうとナイフを取り出した。
「今、助けてやる」
ナイフの刃を近づけた時、強烈な電流が兵士を吹き飛ばした。
「大丈夫か!」
仲間が駆け寄った時だ。
木の上から何かが降ってきた。そいつは正確に兵士たちの頭に飛びつくと触手を身体の中に食い込ませていった。
装甲車内では次々とカメラの映像が途切れてく。
「何が起こってる? 軍曹」
少尉が呼びかけたが返事は戻ってこなかった。
装甲車のドライバーがガンカメラで周囲の警戒を強めた時、照準カメラの中に仲間の兵士が映った。肩に仲間を担いでいた。
「負傷らしい。中に入れろ」
少尉の命令で装甲車の後部ハッチが開けられた。
その時、中の兵士が目にしたのは体を機械で侵食された仲間の姿だった。
兵士がハンドガンを抜くが間に合わない。何か得体のしれない機械部品を顔に押し付けられてしまう。
銃声が装甲車内に響いた。
ダウンロード中……ダウンロード中……
頭の中に同じ言葉が響いていた。
ロン・ルーヴ少尉は、何故そんな言葉が頭にリフレイションしているのか分からなかった。
最後に覚えているのは何かが顔に飛びついてきたシーンだ。
ダウンロード完了
その言葉を最後にルーヴ少尉の意識は完全に消えた。
やがてブラックアウトした脳が再び活動を始めた時、意識は別のモノに入れ替わっていた。
この時、宇宙航空軍所属警備隊所属のロン・ルーヴは、消え去っていた。
「ナンバー1、ダウンロード完了」
装甲車の中で倒れていたルーヴ少尉が立ちあがった。
落ちてたヘルメットのカメラが姿を映し出しす。ディスプレイに映ったのは変わり果てた指揮官の姿だった。その顔は、まるで砂利の中に落としたアイスクリームの様だ。
ディスプレイの映像が一斉に復旧した。
指揮官はヘルメットを拾うと被り直す。
「各員、現状を報告せよ」
マイクを使って呼びかけるとすぐに返事は帰って来た。
『ナンバー5、ダウンロード完了』
『ナンバー2、ダウンロード完了』
偵察部隊の人数だけ応答を聞きとった後、指揮官は装甲車のハッチを開けた。
外では姿の変わってしまった兵士たちが整列している。
「いくつ残った?」
装甲車から指揮官が言った。
「はい、ギガ。3つが墜落の衝撃で行動不能ですが人間の部隊はすべて乗っ取りました」
「よろしい。残りを回収した後、作戦の第二段階に移る。準備しろ」
命令を受けた兵士たちは墜落したガルムにいくと、破壊された機体の中からフットボールほどのカプセルを拾いだし始めた。
バッグを持ってくるとカプセルをその中に詰め始めた。
やがて全てのカプセルを回収した後、装甲車に乗り込んでいった。
「基地に戻る。連絡しろ」
指揮官のギガは、そう命令すると部下が通信装置を操作する。
「こちら、ラットパトロール。墜落地点に異状はなし。撤収する」
『コマンド・ワン了解』
返事はすぐ来た。
ギガはヘルメットのシールドを下した。不気味な機械の顔がシールドに覆い隠されていく。
兵士たちの魂は、喰われ尽くしてた。
* * * *
損傷の激しいマイアミは辛うじて基地に着陸できた。
輸送機用の滑走路に緊急着陸した際、に何箇所かにえぐりはしたがマイアミが爆発炎上する事はなかった。
すぐに救助隊が送り込まれ爆発の恐れのあるエネルギー炉を停止させた。怪我人も次々と運び出され救助活動は続けられた。
先に基地に戻っていたキーファたちは様子を見に基地内を移動用のカートに乗り込みマイアミの傍に向かった。
目の前に煙が上げるマイアミが見えてきた。多くの装甲が割れているか無残な穴空いている。
キーファは空で見た黒いマシーンを探した。
カリシルアと言われたあの戦闘兵器だ。
「いたぜ、キーファ」
双眼鏡をのぞいていたルーザがそう言ってキーファの肩を叩く。
「貸せ」
「おい!」
ルーザの見ていた双眼鏡を奪い取って除くとマイアミから何かが運び出される最中だった。
「あれだ」
牽引されていたのは空で見た黒いマシーンだ。
「俺にも見せろよ」
ルーザは双眼鏡を取り戻すとのぞき込む。
「ほう、すごいね」
「だろ?」
「キーファ、俺の言った通りだ」
「何が?」
「声の通りセクシーだぜ」
今度はキーファが双眼鏡を奪い取り覗き込んだ。
「おっと……」
黒いマシーンの傍に立っているのはパイロットだ。長い髪をなびかせマシーンを見上げている。
「ヒリア人か……」
「ヒリア人だろうが美人だぜ」
「何言ってんだ? お前」
その時、轟音が響いてきた。
見上げるとGF-64の編隊が頭上を通り過ぎていく。
「サーティーン・カレンのお帰りだぜ。キーファ、気をつけろよ」
「なんで?」
「カレンは事あるごとにお前に突っかかってくるだろ。なんかしたわけ?」
「知るかよ」
「お前、そのうち撃ち落とされるぜ」
* * * * *
「カリシルアのテストパイロット?」
基地司令官のウォーター大佐の部屋に呼び出されたキーファはそう告げられた。
「司令部から一番のパイロットをと指定され君を推薦した。インフェリアの大気圏下での一通りのテストを行ってもらう。すでに地球上でのテストは終えた機体だから支障はないと思う」
「光栄ですが、カリシルアには従来のパイロットがいるのでは?」
キーファは見かけたヒリア人パイロットの事を言った。
「地球でテストを行ったパイロットはガルバの襲撃の際、死亡した」
「彼女が? ウソだろ?」
「彼女? 誰のことを言ってる、キーファ准尉」
「いや、その支援の際、交信したパイロットがいましたので」
その時、背後のドアが開かれ誰かが入って来た。
「カリシルアは二人乗りなんですよ」
部屋に入ってきた誰かはそう言った。キーファが振り向くとそこに立っていたのは消火作業の行われていた宇宙駆逐艦マイアミの傍で見かけたパイロットだった。
「あんたは……?」
「彼女はラミラ・ミル・シシラ。カリシルアのテストパイロットだ」
ウォーター大佐がそう紹介するとヒリア人パイロットは軽く頭を下げた。
「ラミラ・ミル・シシラです。カリシルアのガンナーを担当します。よろしく准尉」
無表情なラミラに少しは笑顔を見せたらどうかと思うキーファだったがそう思うキーファも表情豊かな方ではない。
「彼女は民間人だから敬礼は不要だ」
ウォーター大佐の言葉に、キーファはそれならと握手の為の右手を差し出した。
「キーファ・アスタート准尉です。こちらこそ、よろしく」
握手が交わされた。冷たい印象のあったラミラだったが手には温もりがあった。
* * * * *
「そこは立ち入り禁止だぞ」
二人組の警備兵のうちの一人がそう声を掛けたが、そいつは振り向かなかった。
黒いリードに繋がれた犬が吠え続ける。
男が見上げていたのは捕獲したガルバ軍の機動兵器だった。損傷をしていたが使えそうな機体だった。ガルバの電子頭脳は取り除かれ、研究施設に輸送する予定だった。
「所属と階級を言え」
答えない兵士を警備兵たちは不審に思った。手に持ったバッグも不自然に思える。警備兵たちは用心の為、所持していたアサルトライフルを向けた。ライフルを向けられたところでようやく不審な兵士は口を開く。
「階級は……オクス……」
「オクス? どんな階級だ? おまえ、ラリってるのか?」
おかしな言動にの警備兵はさらに警戒する。犬の吠える声も強くなっていった。
「所属は……ビム・リドリスイ・フェネート……」
「そんな部隊はこの基地にない! 貴様、そのまま……」
だが一瞬で警備兵の顔にカプセルが押しつけられた。カプセルから触手が伸び顔を覆っていった。
隣にいた兵士は慌ててアサルトライフルを向けたがそれより早く、心臓にソードが突き付けられた。ソードは防弾仕様のベストを突き抜け背中から血で濡れた刃先を突き出す。
「お前たちの言葉で"魂喰い(SOUL EATER)"と言う。わかったか? 有機体」
ソードが引き抜かれると兵士はその場に崩れ落ちた。隣では顔を金属の触手に覆われた警備兵が痙攣を起こしながら仰向けに倒れている。
「もうひとつ言うとオクスはお前たちの階級でいうと"中佐"の意味に近い」
痙攣していた警備兵が立ち上がった。顔は機械の触手に覆われたままだがまるで鉄仮面のように変化している。
「オクス・ギガ。ご命令を」
起き上った警備兵は目の前の兵士にそう言った。
「あと、1人に見つけてインプラントしろ」
ギガはそう言った後、目の前の損傷した機動兵器ガルムを見上げた。
「俺はこれを復旧させる」
* * * * *
キーファは、カリシルアのある格納庫にマニュアルを抱えてやってきた。
しかし、そこにいたのはカリシルアだけでなかった。
「ラミラ……さん?」
ラミラがキーファの方を振り向いた。
「あんたも操作の確認かい? いや、あんたは地球で散々こいつを動かしてきたか」
ラミラは表情を変えず頷いた。
「1500時間を費やしています」
そう言うとラミラはカリシルアを見上げた後さらに付け加えた。
「地球の時間基準で」
「そいつはすごい」
キーファはカリシルアのコクピットに這いあがる。
「俺は1年生だ。ドアの開け方も知らない」
マニュアルを見ながらハッチを開けたキーファはコクピットに乗り込んだ。
「あまりGF-64と変わらない気がするな」
シートに座ったキーファはそう言った。
「カリシルアを普通の機体と思ったら大間違いですよ」
「そうかい」
素っ気のないラミラの言葉にキーファは少しムッとする。
「悪いが俺の飛行時間はあんたの倍以上はあるぜ?」
「実戦は私と同じくらいでしょ」
キーファの顔つきが変わった。
「何を聞いてる?」
「別に。ただ飛行データを見させてもらっただけです」
「そうか」
キーファはコクピットから頬杖をつきながら顔を出した。
「だが書いてない事もある」
「私が渡されたのは違う資料ということですか?」
「多分、秘密作戦時の事は省かれてるよ」
「秘密作戦?」
「まあ、その辺は機密事項だ。けどあんたよりは飛行時間も実戦経験も長いんだ。わかったかい?」
ラミラの表情は、変わらなかった。
「覚えときます」
その時、格納庫に誰かが入ってきた。キーファたちは最初、整備兵だと思ったが服装が違った。完全武装でアサルトライフルも持った兵士が3人。
「何かあったのか?」
兵士たちはキーファの呼びかけに答えない。顔を見合わせるとライフルを構えて進んできた。
「おい! どういうつもりだ!」
問答無用に発砲が開始された。キーファはコクピットから飛び出し、突っ立ったままのラミラを押し倒す。銃弾が頭の上を飛び交った。
「私たちがスパイと誤解されてるのですか?」
「そんなマヌケな話じゃなさそうだ」
キーファはラミラをひっぱり起こすと物陰に隠れた。銃撃は遮蔽物に向かって続けられる。
「なんだ、あいつら」
アサルトライフルを構えて進んでくる兵士の顔は人ではなかった。ヘルメット備え付けのシールドでもない。それはまるで機械部品が剥き出しになった様だった。
「ガルバなのか?」
「ガルバが何故、こんなところに? 警報も鳴っていない」
「きっと潜入工作員だ。地球軍のアーマースーツを着てやがる。まったく、うちの軍は!」
キーファは、連絡できる方法がないか探した。奥の柱に内線電話があったがこう銃撃されてはたどり着きそうもない。
「くそっ! 最悪だ」
「本当の最悪はこんなものではありませんよ」
その言葉がこのヒリア人から言われるとは思わなかったキーファは一瞬呆気にとられる。
「あ、ああ……そうかもな」
様子を一度見ると兵士たちは撃ち尽くした弾倉の交換をしていた。
「俺が囮になるからその隙に隣の格納庫へ行け。非常通路があるはずだ」
「危険です」
「ここままじゃ二人とも殺される。だろ?」
「けれど……」
「今度、本当の最悪ってのを教えてくれよ」
キーファはラミラの言葉を遮ると片目を瞑ってみせた。
「行くぞ」
「待って!」
キーファの腕がきつく掴まれた。
「放せ! 本当に二人ともやられちまうぞ」
「私に考えがあります」
「何?」
「相手はガルバなのでしょ? だったら私に任せてください」
「だが……」
「あなたには借りがあります。今度は私が助ける番」
真剣な目でキーファはを見つめるラミラ。
「わかったよ。どんな手か知らんが任せる」
キーファはこのヒリアの娘の言葉を信じる事にした。
一方、弾丸の装填を終えたガルバたちは再びアサルトライフルを構えていた。
ラミラはキーファの前に行くと体を遮るように立った。
「(正しき者の意思を伝え、悪しき者を遠ざける契約の詩よ……)」
ラミラはヒリアの言葉を唱え始めた。
いや、これは唄だ。メロディがある。
キーファはラミラの行動が理解できなかった。確かにいい唄とは思うが今はそんな時ではない。
「おい、あんた何を……」
キーファは目の前の様子に言葉を止めた。
ラミラの体の周りに赤い光が覆う。
何かが起きてる!
そう思ったキーファは後ずさりした。
ガルバに体を乗っ取られた兵士はラミラにアサルトライフルの銃口を向けた。
「まずい!」
だがその時だ! 近づいてきたガルバの様子に異変が起こっていた。
3人とも苦しんだ様子でそのまま倒れてた。
しばらくしてラミラは唄を止めると大きく深呼吸した。
キーファは用心深く倒れた兵士に近づくと仰向けにした。兵士の顔に付いていた奇妙な機械が剥がれ落ちる。その機械は床に落ちると同時に細かい部品が崩れ落ちるように外れる。
「何をした?」
キーファが驚いた顔でラミラに尋ねる。
「"戦歌"です」
少し汗をかいた様子のラミラはそう言った。
戦歌?
聞いたことがある言葉だ。確かヒリア人が地球軍がくる以前にガルバの対抗策として使用した能力だ。地球軍はガルバに有効なこの能力を研究したが謎の多い力だった。指向性の音波なのか電磁波なのかいまだに解明できてはいない。
多くの戦歌使いは初期の先頭で命を落としてしまって殆ど残っていないと聞く。
ラミラはその生き残りなのだろうか?
「どうした?」
疲れた様子のラミラにキーファは声をかける。
「いえ、ちょっと……あ」
ラミラは急によろけた。それをキーファが咄嗟に腕を出し支えた。
「おいおい、大丈夫か?」
「え……ええ。なんだか気が緩んでしまって」
「まだ、安心するのは早いぜ。この基地の状況はまだ分からないんだからな」
「そうですね」
ラミラはキーファの身体から離れた。
「まだ、集中していないと」
どうやら戦歌のせいか、多少体力消耗してるらしい。そうラミラの能力も当てにはできないようだ。キーファは倒れる兵士からアサルトライフルを取ると弾丸の確認をした。
「とにかくここから出よう」
「でも、カリシルアが」
「ここに来た奴らは、もうあんたが倒したろ?」
「そうですけど……」
ラミラは不服そうだがアサルトライフルを確保したとはいえ、ここでは反撃しにくい。もっと防御に適した場所に移動したい。あとは強力な火器も……まてよ?
キーファは背後にあった新兵器を見上げた。
「あるじゃないか」
「あなた、何かおかしな事を考えているようですね」
「これならどいつが来てもなんとかなんだろ?」
「カリシルアの対応するのは機動兵器や宇宙戦艦です。人間サイズの兵士には対応できません」
「誰がこれで対応するって言ったよ」
「え?」
「君が乗り込んでろ。俺は基地の様子を見てくる」
「私も行きます」
「さっきみたいに工作員が近づいてたカリシルアは破壊されちまうぞ。移動させなきゃ、まずいだろ」
「でも」
無表情だったラミラが初めて不安の表情を示す。
「大丈夫だ。すぐ戻るから……」
その時、格納の中に振動が始まった。内壁の一部が崩れ、落下してくる。
二人はカリシルアの機体の下に逃げ込み難を逃れた。
「なんだ?」
格納庫の壁を破り、何が姿を現した。地球軍の兵器とは違うカラーリングと機体。
それはガルバの機動兵器ガルムだった。
「なんで防衛ラインがこんなに簡単に突破されるんだよ!」
「キーファ、カリシルアに搭乗しましょう」
「あ? ああ」
二人はカリシルアのコクピットに乗り込みハッチを閉めた。
ガルムは、格納庫内に入り込むと周囲を見渡した。カメラが倒れる兵士たちとカリシルアを捉えた。
さらに後ろから別のガルムが入り込んでくる。
カリシルア! カリシルアを見つけた!
ガルムに内蔵された電子基板の中では、その言葉が駆け巡っていた。
格納庫に入り込んだ2機のガルムがカリシルアに近づいていく。
頭部から探査装置らしきものが伸びるとカリシルアに向けられた。
『照合完了。目標であろう確率は78%』
ガルムが様子を見ているなかカリシルアのコクピット内ではキーファとラミラが始動の準備を進めていた。
「攻撃は任せていいんだな」
操縦桿を握ったキーファがラミラに念を押す。
「はい、先ほどもいいましたが私は500時間の搭乗時間がありますから」
キーファは肩をすくめるとヘルメットをかぶった。
「実戦経験の殆どないガンナーと……」
ヘルメットにシールドに様々情報が表示される。キーファはそれを一通り目で追った。
「……久々の実戦を迎えるパイロットだ。運が良ければ生き残れるな」
「何かいいましたか?」
「いや、なんでもないよ。幸運のおまじないを唱えただけさ」
「おまじない?」
ラミラは興味深そうに顔を突きつける。
「本当になんでもない。ほら、操作に集中してろ」
キーファはヘルメットをかぶったラミラの頭を押し返す。
「は、はい……」
そうしている間にもガルムは近づいてきた。だがどういうわけか攻撃の様子はない。
キーファは少し気になったが、パイロットがすでに乗り込んでいるのに気がついていないのかもしれない。あれこれ考えるより、ここは行動あるのみだ!
「動力は?」
「出力はまだ86%ですが飛行以外の行動は可能です」
「十分! 攻撃の方は?」
「60%の換装兵器が使用可能です」
「心もとないな」
「キーファ」
「何んだ?」
「遠距離兵器の使用はまだできませんが、接近戦兵器は使用可能です」
「なら、いってみるか」
「はい!」
各ゲージの表示が激しく動き出す。
「カリシルア始動だ!」
機体の色が変色しだした。黒い色から赤に変わっていく。軽く光を帯びたようになった時、カリシルアはついに動き出した!
『警戒! カリシルア始動! カリシルア始動!』
突如、動き出したカリシルアに二機のガルバは戦闘態勢に入っていく。
「ラミラ! ぶっ放せ!」
「それが……」
「どうした! 早く撃て!」
「カリシルアの指向性武器は強力過ぎてこの施設に大きな損害を与えかねません」
「なんだよ、今頃になって。さっきは接近戦用兵器は大丈夫だって言ったろ?」
「はい……ごめんなさい。私の言い方が誤解を与えてしまいました。正確に言うと……」
「使える武器は!」
まどろっこしい対応のラミラにキーファが苛立つ。
「スピアーが」
「スピアー? それ仕えるのか?」
「格闘戦用の兵器です。この状況では有効だと思われます」
「じゃあ、それでいい!」
「はい」
ラミラがスイッチを入れるとカリシルアの背中から槍が飛び出した。
「おいおい、なんて取り出し方だよ」
「早く取って!」
「ああ、分かってるさ」
文句を言いながらもキーファはカリシルアを巧みに操作する。
カリシルアの手は、宙に飛んだ鋼鉄のスピアーを掴んでいた!
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