Dファクトリー

 ●カリシルアの戦歌

W・ガルバ A

二稿目

「ひどい有様だな」
 ウォーター大佐は各セクションの報告を受けるとそう呟いた。
「今、飛び立てるのはVTOL機だけですが、1機を除いて全て破壊されました」
「その1機を飛ばして周囲を警戒させるんだ。使えるヘリも全部空に上げて警戒させるんだ」
「わかりました」
「まったく……司令部の援軍も遅いし、まるで朝から悪夢をみてるようだぞ」
「今はもう昼ですよ」
「どっちでもいい。潜入してきたのはわずか数名だそうじゃないか。それがここまでやるとはまったく予想外もいいとこだ」
「それなんですが、敵は偵察にでた部隊の兵士に"寄生"したらしいのです」
「寄生? 寄生とはどういう意味だ」
「兵士の死体を解剖した結果、頭部に配線のようなものが入り込んでいました。担当医の話しでは、おそらくそれらは人間をコントロールする為のものではないかとの事です」
「機械め」
 ウォーター大佐は吐き捨てるようにそう言った。
「司令部に連絡しろ。死体は送る事になるから保存しておくんだ」
「了解。あの大佐。敵の攻撃は、またくるのでしょうか?」
「ここは、制圧エリアだったはずだ。それがこの様だ。我が軍の守備が甘いのか、敵が優れているのか。どちらにしろ連中にはここを狙う理由がある」
 ウォーター大佐は、滑走路に立つカリシルアに顔を向けた。
「ガルバにはよほど、あれが脅威なんだろうよ」
 カリシルアの傍には軍の整備兵ではなく製造元の民間スタッフが集まっていた。軍服を着た人間もちらほらみかけるが大多数は民間人だった。
「とにかく、滑走路の補修を一本に絞れ。全人員をそこに集中させるんだ。GF-64"ギガゲイ"をすぐにでも飛ばせれるようにしておくんだ」


 *  *  *  *  *


「まったく、命がけでインフェリアに到着したと思ったらこの様だ」
 メガネをかけたドーマン・フィクス社の社員がそう愚痴った。
 ドーマン・フィクス社は、軍の兵器を製造してる会社だった。カリシルアを製造した製造メーカーでもある。
「試験運転もなにもないな。いきなり実戦とは。だいたいここは地球の勢力圏内じゃなかったのかよ」
 ランド・メイヤーズは、カリシルアのテストを見届ける為にインフェリアにやってきたドーマン・フィクス社の人間であった。軍とのやりとりは、全て彼が行う事になっていた。
「でも、ガルバの機動兵器を3機撃破なんて結果は上々じゃないんですか?」
 傍にいた整備スタッフの一人がそう言った。 
「3機? 壊れかけの3機だぞ。データにはならんさ」
 そこへコクピットから降りたラミラが通りかかった。メイヤーズはラミラを呼びとめた。
「やあやあラミラ。無事でなによりです」
 メイヤーズはわざとらしいくらいのうやうやしさで声をかけた。
「メイヤーズさん」
 ラミラは軽く会釈をする。
「カリシルアは大丈夫でしょうか?」
「ああ、大した損傷はないから、すぐ動かせるようになりますよ」
「そう、よかった」
「ところで、今晩、お食事でもどうです?」
「あ……」
 メイヤーズの申し出に戸惑うラミラ。
「コックに特別メニューを作らせて……」
「あの、申し訳ありません。パイロット同志のミーティングがありますので、ちょっと」
「ミーティング? そんな予定あったかな?」
「はい……ということで失礼します」
 ラミラは会釈をするとその場を早足で立ち去った。
 メイヤーズをそれを名残惜しいように見送った。一部始終を見ていた整備スタッフがにやける。
「何見てる。さっさと仕事をしろ」
 メイヤーズが八つ当たりした。


 ラミラは、歩きながらついた嘘に少し罪悪感を覚えていた。
 そんな時、洗面所から出てきたキーファと鉢合わせした。調子がよくないのか顔色が悪い。
「大丈夫ですか?」
「ああ、平気さ」
「あの、准尉」
「ん?」
「戦闘時のミーティングをしたいのですが」
「戦闘? カリシルアはまだテスト段階の機種だろ」
「その事ですが、アスタート准尉。カリシルアが作戦に投入させる事が決まったそうです。という事はあなたは正規パイロットになるわけです」
「なに?」
「あとで基地司令官のウォーター大佐から通達があるはずですよ」
「なんてこった」
「不服なので?」
「いや、別に。つい口走っちまっただけさ」
「そうですか。で、ミーティングの件は?」
「いいよ。いつだ?」
「食事の時に」
 これでメイヤーズに言った事が嘘ではなくなった。ラミラはそう言ってにっこりと笑う。
 そしてキーファがラミラが笑顔を見たのはこれが初めてだった。



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