Dファクトリー

3、囚われたまま
二稿目


「君って?」
「姫君の事でございます」
「東の国の姫のこと?」
「はい」
「その姫が空飛ぶホウキを欲しいって言いだしたって事?」
「いえ、姫はその様な事は申しません。だいたい姫はお淑やかなお方ですから空飛ぶホウキなど……」
「悪かったわね、おしとやかじゃなくて」
「空飛ぶホウキを欲しかったのは私です、姫を助け出すために」
「どうして姫を助け出すのに空飛ぶホウキが必要なのよ」
「はい、その前にある場所に一緒に行って欲しいのですが」
「またぁ?」
「そこへ行くのが説明しやすいので」
「わかったわよ。で、どこ?」
 
 二人は街の外にある湖までやってきた。
 湖の畔に来ると異国から来た"ニンジャ"シローは、経緯を語り出した。
「国で戦があり、命を狙われていた姫を連れてこの国に逃げ延びてきました。ここは平和な場所で数ヶ月間は平和に暮らしていたんです。ところが、ある時、地元の金持ちに姫が見初められまして」
「セレブの玉の輿じゃない。いいことじゃん」
「そんな事はありません!」
 シローはキーラに食ってかかる。
「そ、そんなにむきにならなくても」
「あ! すみません。でも、姫にもご自分の意思がございます。必ずしもお相手のお気持ちと姫のお気持ちが同じとは限りません」
「つまり好みじゃなかったってことね。よくある話」
「はい。ところがこの金持ちは、自分の言うことを聞かせようと姫を閉じ込めてしまったのです」
「まあ、なんて酷い奴。そんなのありえないわ」
 他人の話とはいえ、キーラもムカついた。相手の気持ちを考えない恋愛なんてキーラ的にはNGだ。
「ええ、そしてあそこに姫は囚われているのです」
 シローは、そう言って湖の真ん中を指差した。
 湖の真ん中にある小島にはいつの間にか建てられたのか高い高い塔がそびえ立っている。
 キーラは塔を見上げた。
「しっかし、ばかでかい建物ねぇ」
「ええ、金にものを言わせて建てさせたとか、これがなかなか堅固でして」
「でもシローは、泥棒なんでしょ? あのくらい登れないの? 壁を駆け上がってたし」
「いや、泥棒じゃないです、ニンジャですから」
「やってる事、同じじゃん?」
「ま、まあいいですけど……」
 シローの顔がひきつる。
「いや、私も登れないわけじゃないんです。ニンジャとしてそれなりの修練も積んでますし。しかし、あの塔まで辿りつくのが困難でして」
 シローはニンジャの部分を強調してそう言った。
「困難?」
 シローは湖の方を見つめた。
「しばらく見ていてください」
 キーラも湖を見たが、何も変わったことはない。
「何があるってのよ」
「しっ! ちょうど来ましたから隠れて!」
 そう言ってシローはキーラに頭を下げろとゼスチャーした。
 草むらに隠れて湖の様子をうかがう二人。
 しばらくすると水鳥が湖の上に飛んできた。餌の魚を探しているのか休む場所を探しているのかしばらく湖上を飛んでいる。
 そして塔のそばに来た時だった!
「出ました!」
 大きな水しぶきと共に湖の中から何かが飛び出してきた!
「え?」
 呆気にとられるキーラ
 水から飛び出した巨大な蛇のような怪物は飛んでいた水鳥を一飲みしてまた水中に戻ってく。水面の波は大きく揺れたままだ。
「あれが原因です」
 泣きそうな顔でシローがキーラの方を向く。
「あ、あれって……」
 呆然としたままのキーラにシローが話し始めた。
「金持ちが、どこぞの魔法使いに頼んでかけた呪いだそうです。確かに魔法は便利ですばらしいですが、だからといって見境なく魔法を利用していいものでしょうか?」
「そ、そうよね、ハハハ」
「まったく魔法使いとは人の心に欠けた者です。あ、キーラさんは違いますよ。私の言ってるのは、この呪をかけた馬鹿魔法使いのことですから。ああーっ! 考えただけで腹が立つ! 馬鹿魔法使いめ! しね!」
「あのぉ……」
「キーラさんもそう思うでしょ?」
「……その馬鹿魔法使いって目の前にいると思います。たぶん」
 聞き取れないほどでキーラがつぶやいた。
「え?」
「あの、いやだからその馬鹿魔法使いって目の前」
 見つめあう二人。
 その場には、気まずい沈黙が流れていた。



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