Dファクトリー

4、おまかせあれ
二稿目


「だからぁ、そんない怒らないでよー」
「知りませんよ! まさかキーラさんが……ぶつぶつ」
 文句をいいながらシロ―は湖畔の道を進んだ
「事情知らなかったんだからーぁ。だって宝を盗賊から守りたいってゆーからさあ」
「でもあんな、ヘビーな怪物を仕掛ける事ないでしょー!」
「うまい! 蛇とヘビーとひっかけて」
「そう、蛇とヘビーとひっか……ちがうって! だからなんであんなごっつい化け物を仕掛けたのかって言ってるんですよ!」
「いや、インパクトあるかなーって」
「キーラさんとはもう口をききたくありません!」
「そんなこと言わないでよ。協力するからさあ」
「じゃあ、あの呪いを解いてくださいよ」
 キーラは気まずそうな笑いをうかべながら頭を掻いた。
「それがあの"ガーディアンの護符"は、私にも難しくって解けないんだよね」
「かけたのあんたでしょーが!」
「いや、なんか上手くできる気がしたんで初めてやってみました。へへ♪」
「へへ♪ じゃありません! じゃあ、空飛ぶホウキを貸してくださいよ!」
「あの空飛ぶホウキって魔法使いでないと浮きもしないの。わかる? シローが乗っても飛べないのよ」
「マジっすか?」
「それに乗れたとしたも私の乗ってるホウキって一人乗りなのよねえ。あれで助け出しても墜落するか怪物に追いつかれるよ? それでもいい?」
「いや、それはちょっと……けどそれじゃ、私は、どうすれば」
「心配しないで。他の方法を考えてるよ。だからおいで」
 そう言ってキーラはにっこり笑う。
「他の方法?」

 *  *  *  *  *

 二人がやってきたのは、ある商店街だった。
 普通の商店街ではない。魔法使い専用の商店街だ。
「こんなところが……」
「この街の次元の隙間にあって、普通の人間は気がつかないんだよ。シローを連れてくるのは特別なんだからね。何も盗まないでよ」
「キーラさん、あくまでもボクも泥棒扱いですか……」
 キーラたちは、ある店の前にきた。看板には稲妻をハンマーで砕いた絵が描かれいる。"ドロップ・チョッパー"と書かれた看板の下には様々なタイプの魔法のホウキが並んでいる。
「ここで、なにを?」
 見慣れない場所に興味津津なシロ―はキョロキョロとまわりを見渡している。
「いいから、いいから」
「おっ、キーラ嬢ちゃん。今日は何だい? ホウキの調子がまた悪くなったかい?」
 そう言いながら店の奥から偉そうなシルバーのヒゲを生やしたマッチョな大男が出てきた。カスタム空飛ぶホウキショップ・ドロップ・チョッパーの店長シルヴァーだ。見るからにごっつく、コインも指で曲げそうな雰囲気がある。
「ちょっと2人乗りできるホウキを見に来たんだけど」
「いろいろあるよ。この前でたばっかの新型なんて……」
「ヤワいのじゃなくてパワー&スピードを兼ね備えた奴を探してるんだけど。ああ、プラス、イケてるの」
「おっ、ゆーねー。じゃあ、これなんかどうだい。ベオウルフ1000だ」
 そう言って店主が見せたのは普通の空飛ぶホウキに比べると倍は大きく、空気抵抗を減らす為なのか先端には流線型の金属のカバーをとりつけてある。既にホウキとはいえない形状だ。もっとも、空を飛ぶのになぜホウキなんだといえばそれまでなのだが。
「ブラシの部分が無いみたいだけど」
「あんなのは飾りだ。おエラいさんにはそれがわからんのだ」
「……ガン●ムファンにしかわからないネタはやめてくれる? 店長」
「すまん、すまん、ついアツくなってしまって。とはいうもののあれはうちの置いてあるなかでは最高の化け物マシーンだよ」
「うーん……」
 キーラはホウキまたがって感触を確かめる。
「ポジションはいいみたいだけど」
「ああ、操作しやすいぞ。ハンドリングは抜群だ。だが、いかにせんパワーがなぁ。これはキーラお嬢さんにはちょっと無理だと……」
「決めた。これください」
「毎度あり……って! 聞いてる?」
「金ならある」
「いや、金の問題じゃないんだよなぁ。女の細腕では、この怪物は乗りこなせないのよ。いいかい? そもそのハイパワーの……
「倍出そう」
「毎度あり!」
 金貨の袋が店長の目の前に置かれた。


 *  *  *  *  *


「いいんですか? こんな買い物しちゃって」
「いいの、いいの。このお金はあの塔につけられた"護符"を作ってもらったものだしね」
 そう言ってキーラはウインクしてみせた。
「キーラさん」
「ああ、また泣く。あんたってもしかして泣き上戸?」
 そうしてる内に超ハイパー空飛ぶホウキ・ベオウルフ1000の整備が済んだ。
「おまたせ、キーラ嬢ちゃん。準備ができたよ。でも本当にいいのかい? 脅かすわけじゃないけど、こいつはぶっ飛ぶような馬力だよ」
「でも、そのくらいなら2人乗ってもスピードも落ちないでしょ?」
「まあな。余裕だろ」
「じゃあOKよ。これこそ私の求めていた空飛ぶホウキよ」
「キーラさん。私が言うのもなんですが、店主さんの言うとおりなら注意しないと」
「大丈夫、大丈夫」
「いや、そういったおごりが一番危ないですよ。東の国では"油断大敵"という言葉もあります」
「だから平気だって」
「キーラさん。私がこう言うのも、あなたの事を心配してだって分かってるんですか?」
「私は大丈夫よ。だって、乗るのはシローだもん」
「そうですか、乗るのはキーラさんではなくて私。なら安心……えーっ! 私ですかーっ!」
「他に誰がいるのよ。私に姫さまと面識があるわけじゃないし」
 青ざめたシローに素っ気なくそう言うキーラ
「い、言われてみればそのとおりですが、さっきあなたは魔法使いしか空飛ぶホウキは乗れないって言ってたじゃないですか?」
 店主のシルヴァーは手を拭きながら口をはさむ。
「キーラ嬢ちゃん、話に口をはさんで悪いんだが、このオニイチャンが、ベオウルフ1000(こいつ)に乗るのか?」
「そうよ。だってこれが必要なのはこのシローだし」
「でも、このオニイチャンも言っていたが空飛ぶホウキは魔法使いしか乗れないそ。普通の人間が乗っても1ミリだって浮きやしない」
「普通にやったらね。ね、ちょっとそれに乗ってみてよ、シロー」
「でも私が乗っても浮かないんでしょ?」
「いいから、いいから」
 言われるままにシローは最新型の空飛ぶホウキ"ベオウルフ1000"にまたがった。
「やはり浮かないです」
「そのままじゃね。ちょっとまってね」
 キーラはそう言うと自分の髪の毛を1本抜くと呪文を唱えた。
「これでいいわ。じゃあ、これ持ってみて」
 キーラは髪の毛をシローに渡した。すると……
「あら? あららららあああ」
 どうしたことか、ベオウルフ1000が浮きだした。
「キーラさん。飛べますよ、これ!」
「私の髪の毛に魔法をかけて私が乗っているのと同じ状態を作り出したのよ。これで魔法使いでなくても飛べるわ」
「すごいです! さすがキーラさん。よーし、これで姫を助け出す事ができるぞ! やるぞ! うおおおおおお!」
「それほどでも……えへへ」
 その時だ。ゆっくりとベオウルフ1000が降りていく。
「あれ? 飛びませんよ? なんで?」
「しまった。髪の毛一本じゃ、魔法の効力が薄いんだわ」
「じゃあ、どうすれば」
「うーん……」
 腕を組んで悩むキーラ。
「また口をはさんで悪いんだがな」
 店長のシルヴァーが落ちた髪の毛を拾うとキーラに見せた。
「この髪の毛が1本だからすぐ効き目がなくなっちまうんだろ?」
「まあ、そうなんだけどね」
「だったら、もっと髪の毛を持たせればそれだけ長く乗ってられんじゃねえのか?」
「もっと髪の毛って……」
 店長とシローはキーラの長い髪をじっと見る。
「な、なんでそんな目で私を見てるわけ?」



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