Dファクトリー


7、伸ばした手は僕の気持ち
二稿目


窓の外からキーラやシローをじっと見つめる大蛇。
「キ、キーラさんなんとかしてくださいよー」
 そう言ってキーラの背中を押すシロー。
「ちょ、ちょっと! 何してるのよ!」
「だって、あんたが作った怪物でしょう!」
「いや、だからって無理無理無理」
 大蛇は頭を体当たりさせて窓から入り込もうとしている。大蛇がぶつかるたびに塔が大きく揺れた。
「とにかく早く逃げましょう。さっ、朱姫様。これにお乗りください」
 シローはベオウルフ1000のハンドルを握った。
「わかりました……といいたいところですが一体、どこに乗ればよろしいのでしょう?」
「どこにって……わーっ!」
 瓦礫から引きずり出したはずのベオウルフ1000はシローの持ったハンドルだけになっていた。
「わーっ! どうしましょう! キーラさん」
「ど、どうしましょうって……どうしましょう?」
 壁にひびが入っていく。もう何度か大蛇がアタックすれば中に入ってきてしまうだろう。
「ああーっ仕方がない! プランBでいくからね! シロー」
「はい! プランB発動……ってなんです? プランBって」
 キーラはシローに黒いバッグを投げつけた。
「それがプランBよ」
「これをどうするんですか?」
「それをね……ごにょごにょ」
 キーラはシローに耳打ちする。
「……え? まじで? 無理無理無理」
 首を横に振る。
「他に逃げ道はないんだからしかたがないでしょ!」
「なんでそんな事を思いつくんですか……あーっ!」
 バッグの中を開けたシローが目をまるくして驚いた。
「なんてことするんですか! キーラさん。これは我が家の大事な……」
「だって、ちょうどよかったんだもん」
 そう言って口を尖らすキーラ。
「だってじゃないですよ!」
 その時だ! 何かが崩れる音がした!
 キーラたちが振り向くと壁は突き破られ大蛇の頭が部屋の中に入り込んでいた。
「ほら、来ちゃったよ。もう、やるしかないって!」
 キーラはそう言うと空飛ぶホウキに飛び乗った! 周囲に風が巻き起こるとホウキが飛びあがる。
「さあ! 創造主様についてこい!」
 空飛ぶホウキは狭い部屋の中を旋回した後、崩された壁の隙間から塔の外に飛び出した。
 その際、大蛇の目の前を横切り挑発する!
 挑発に乗った大蛇はキーラを追って頭を塔から抜き出す。塔の外壁の一部が崩れて湖面に落ちて水しぶきを上げる。
 シローは大蛇が去った後の瓦礫の山に登って外の様子を見た。
 外では大蛇が水面から鎌首をもたげてキーラを追っていた。
「キーラさん……」
 必死に逃げ回るキーラの姿を見てシローも覚悟を決める。自分の頬を叩き、気合を入れた後、キーラから渡されたバッグを背負った。
「さっ! 朱姫さま!」
 瓦礫の上からシローが手を伸ばした。
「でも、シロー。どうやってここから逃げる気なのです?」
「いや、ちょっと説明しにくいのですが……と、とにかくお早く!」
 シローの顔が変わった。
「でも……」
 朱姫は躊躇した。
「僕を信じてください!」
 真剣な顔でそう言うシロー目を見た時、朱姫は思った。このニンジャを信じてみようと。それは不思議なくらいに自然に湧きあがった気持だった。
「はい」
 シローの伸ばした手に朱姫の手が触れる。シローは朱姫の手を掴むと抱き寄せた。
「少々、無理をいたします。目をつぶっておられた方がよいかと」
「いえ、このままでよい」
「はっ、では失礼つかまつる」
「え?」
 シローは戸惑う朱姫をだっこすると瓦礫から駆け降りた。そして部屋の隅までいくと、深呼吸する。
 崩された穴のあいた壁に体を向けるとシローは走り出した。
「うおおおおおおおお」
「ちょ、ちょっと、シロー?」
 助走をつけたシローは朱姫を背負ったまま壊れた壁の穴から飛び出した!
 大蛇を引きつけて空を旋回していた空飛ぶホウキに乗ったキーラから塔から飛び降りたシローたちの姿が見えた。
「あっ! やっちゃった!」
 落下していくシローたち。塔の半分を過ぎたころ、シローの背負ったバッグから何かが一気に広がって傘となった!
 空中で大きく広がったシートにはシロー家の家紋が描かれていた。
 ゆっくりと落下していく傘の材料は、シローの家の天井に飾られていた家紋入りの敷物だったのだ。
 キーラは、空からそれを眺めながら我ながらいい出来だと思っていた。
「はははは! しかし本当にしちゃっうとはね、あのニンジャ見直したわ」
 キーラを追っていた大蛇はシローたちに気がついた。頭を方向転換し、シローたちに狙いを定める。
「そうはさせるかーっ!」
 キーラは、大蛇の眼前に出ると目玉にむかってブーツを投げつけた! 怒った大蛇は、キーラに襲いかかる。空飛ぶホウキのスピードを上げて大蛇から遠ざかろうとしたが距離は広がるどころか縮まっていくする。空飛ぶホウキもどこからか煙を噴き出していた。
「お願いだからもってーっ!」
 眼前に塔が迫っていく。空飛ぶホウキが塔の壁直前まで来た時だ!
「いっけーぇ!」
 キーラは思いきり身体を右に振った! それにつられる様に空飛ぶホウキも急角度で曲がっていった。
 しかし、背後からキーラを追っていた大蛇の方は不幸にもそのコースを変えることができなかった。
 大轟音が湖に響く!
 大蛇が衝突した塔が崩れていく。大蛇も一緒に湖に向って倒れていった。
 その様子を見ながら額の汗を拭うキーラ。
 湖では巨大な水しぶきが上がった後、宙に舞った水滴が虹を作っていた。
 その横をゆっくりとシローと朱姫を吊った落下傘が降りていく。
 やがてそれは湖畔に舞い降りた。



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